6 時 の マ ナ ー ( 蓉 子 )





からりと開けた窓の先の冷たさに。

ああ、もう朝なのね。

ないまぜになった感情に身を任せて。小さく息を吐いた。




   *




その、朝までがゆらゆらと。輪郭を作らずにただ漂っている。徹夜の原因の視線を渾身の力で叩き落としソファに身を沈めた。ふかふかで気持ちが良い、このまま眠ってしまいたい。クッションを抱き寄せようとすると何かが指に引っ掛かってきた。摘みあげるまでも無い、聖の、生成りのYシャツ。期待を込めずに横目で見れば案の定彼女は余り推奨できない格好でいた。思わず更に深く沈み込んでいく感覚。



「聖」


呼びかけるだけで、鼻唄を唄っているほどの機嫌が更に跳ねあがるのだから気楽なものだ。
いつもならこの静謐さは決して嫌いではない。少し余裕のある、しかも彼女もきちんと起きている朝は、寧ろかなり好きな時間帯なのだけれど。



「……外から見えるわよ」

風邪の心配も私としての都合も皆すっ飛ばして服を渡した。いや、渡そうとした。



聖の手はマグカップの、先程までの名残が色濃く残っていて。じんわりと、その感覚に身を委ねそうになってしまう。布地で隠された場所で、聖の指が私のそれを辿る。無意識の戯れの類。マッサージと呼ぶには少々無邪気過ぎる、動き。




いつの間にか私は、蘇るざわめきを追い出そうと必死。呼吸があがりかけて、周囲が鋭利になってきて。

ついと唐突に、聖の両手はシャツごと抜き取られた。共有していた温もりが消えていく。

意地の悪さに顔をあげると共に、再び猛烈な眠気が襲ってきた。珈琲も香りだけでは眠りの妨げになりはしない。感情の均衡が揺れて、眠りたいのかそうでないのか分からなくなってくる。




おやすみ、蓉子。講義、午後からだよね?
苦笑を零された空気を吸い込むと益々辺りが溶けていく。早朝の清々しさも、先程までの煮詰められたような濃さも、もう何処にもない。




……マナー違反よ。

最後の呟きは多分、聖の腕の中へと消えていった。











































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