待ち合わせには二分だけ遅れていく。

そう、これは、賭けみたいなもの。





1 1 時 の 店 員 ( 江 利 子 )





電話で呼び寄せた二人はどこか気まずそうに互いを見ていた。あの卒業式のどんぱち騒ぎ以来会ってないのは知っている。両思いなのも知っている。知らぬは当人ばかり也。最も、流石に薄々は予感してるみたいだけど。勘は良くとも肝心なところで確証が持てないんだから、全く。


微妙に固まっている彼女たちを放置してさっさと店内に足を踏み入れる。ちょっと祐巳ちゃんに似たウェイトレスに案内されて、私が席に着いてから残りが来るまでには数分は間があった。これでずっと無言だった、なんて言ったら笑えない。


鼻唄でも唄おうとして出てきた音楽は何故かクラシックで、私は一人で溜め息をつく。これは鼻唄に対する溜め息。目の前でしっかり隣同士に座っていながら微妙な隙間と空気を作り出してる聖さんと蓉子さんとは違うのよ。聖もナンパ紛いのことをしないし、だから蓉子も当然咎めないし。こちらが調子狂うの、分かってるのかしら?

仕様が無いので念力を送る。いや、実際には携帯電話という至極近代的で偉大な電波を拝借。厨房まででもカウンタまででも飛んで行け。



「いらっしゃいませ」


ああ、ほら。



相変わらず私に付き合ってくれる可愛い妹にウインク。少しだけ困ったようなはにかみを浮かべる姿は単純に好きだ。在学中散々にからかってしまったのも、実はそこに原因があったりする。水を一口飲んで、自分の分をオーダー。はっとしたように二人が呪縛解除されるのも可笑しくて笑った。お節介も悪戯も、貴女たちだけのものじゃない。


「江利子……事前に言ってくれればいいじゃない」


令がどこでアルバイトしてようといいじゃない。それにちょっとくらいサプライズを用意しておかないといけないでしょ? しゃっくりなんかより数百倍手間がかかるんだから。



カジュアルだが女の子らしいデザインの制服を着た令は可愛かった。彼女のことだから、男物を着せられてでもしているかと思ったのだけれど。或いは今日だけ特別なのか。そうだったら面白い。いつも着ている場合より、ずっと。



ちらりと横目で前を見る。何故前を見るのに横目を使わなくてはならないのか。漸く注文したのか、去っていく令に小さく手を振る。感謝。貴女を見ると、やっぱり落ち着く。



「さて……それで?」



向かい直り、笑顔。多分今の私は周囲の言う「スイッチの入った」表情をしている。大丈夫、惚気だって愚痴だって告白だって聞いてあげる用意はあるわ。

なんなら私の方も仕返してあげてもいい……し、ね。トレイを抱えて益々困った顔をする当事者の目の前で。



お冷にむせている聖と目を泳がせている蓉子。

彼女たちが親友でなくなるのにそう時間はかからない、と。私は確信している。何て言ったって私のお節介なのだ。



希望的観測を実現させるために。

私は改めて、臨戦態勢に入ったのだった。















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