1 2 時 の 戦 場 ( 蓉 子 )





嗚呼、まるで戦場だわ。


敵は誰なのだろうか。もう、ずっと戦っている筈の相手。顔を見たことはあるだっていつも至近距離で噛みつかれている。投降の白旗のようなフィールドはこれは聖戦であるとでも主張したいようでいて、その実すぐに汗やらなんやらで汚れてしまう脆い地盤。軋みをあげて疲弊していく。いつだって満身創痍。勝った覚えなんて無い。

弾丸のように言葉の飛び交う中で、貴女のものだけが確実に私に突き刺さる。もがいても引き抜いても傷はえぐれていくだけで、体内に残された火薬が私の熱をあげ続ける。摘出は不可能、もうとっくにしみついてしまっているもの。みずがほしい、とひりつく喉で訴えても、恵んではくれない。当然だ、敵なのだから。


休戦の静けさは文字通り嵐の前。次の突風を畏れ怯える私に、回復など出来るはずが無いのだ。横たわる本拠地は岩壁のような感触で、悪化していく状況に為すすべなどもう殆んど、有りはしない。









「蓉子」
せっかく眠れていたのに。渋々弁当箱の上に箸を置き、重い武器を担ぎ直しはいずるように前に出る。一日くらい休ませて。懇願になど耳を貸すはずも無く、聖は捕虜よろしく私を引きずっていく。これからされるのは尋問、拷問?少なくとも、まともな戦にならないことだけは確か。

一階の荷物置き場は最近埃が舞わなくなった。誰が吸収したのかなんて、思い出したくも無いけれど。場所がどこでもやることは大差無い。温室は暑いし声が篭る。家では際限が無い。ここは、少しばかり息苦しい。それくらいの違い。

うっすらどころでは無く充血した紅い跡に、寸分の違いもなく重ねられていく。睨みつけるとあがる口の端。逆効果だった、と唇を噛み締める前に舌が侵入してくる。嫌。嫌悪感では無く反射的に拒絶する。条件反射。殺してから考えろ。いつか見た伝記の一節。

突きつけられた銃口は私の急所から僅か外れている。あのままで撃たれたら、多分凄く痛い。腕ごと掴んで眉間に押し当てても、鉄塊をもぎ取って放り投げてもいい。ただ、そのまま撃たれるのは苦しい。予感を抱きながら貫かれる。もういっそ殺してくれればいいのに。









敵は誰?勿論、本当は知っている。
ただ認めたく無いだけなのだ。未来が怖い。彼女が敵では無くなっている未来が。平和で幸せできっとふたりとも笑っているであろう世界が。怖い、怖くて堪らない。

だから私は鉄の雨の降る地に身を晒す。知っている、本当は、自分が望んでここにいることくらい。飢えも渇きも痛みも、全て許容していることでさえも。

彼女は泣いている。悲壮な顔をして銃を乱射し刀を振り回す。対峙する私は故意と偶然の混ざった攻撃に血を流す。私は少しずつ土に吸い込まれていく。


この地に、勝者などいない。

好きと言われても、答える言葉など持たない。


……まるで戦場。

呟きは彼女の告白に紛れ今日も硝煙のように消えて漂う。











































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