紅く染まっていく。







1 9 時 の メ イ ク ( 聖 )











「ねえ、いいでしょ?」


待てなかった。久々に会って、話したいことは積もって雪崩が起きそうで、私はどれを選ぶことも出来ずに立ちすくんでしまった。声も聞いていなかった、時折交わされるのはメッセージで、メールが会話になる程互いの時間は合わなかった。それくらい懐かしい蓉子を見た途端私に湧き上がったのは愛しさ、それに触れたいという気持ち。居間までは我慢した。でも夕飯、お風呂、くつろぎタイム、諸々まで待てる程度の忍耐力は私には備わっていない。寝室まで行くのももどかしい。


蓉子の目はひどく驚いていたけれど、拒絶の色は感じなかった。都合良く私が変換したのでなければ。疲れてるのに、と非難は多少有った気がする。蓉子は口には出さない類の呟き。ひとこと言ってくれれば、止まれたかは自信がないけれど、それでも手加減くらいはできたかもしれない。つまり手加減しなかったのだ。できなかった。


「ん……」


唇を触れ合わせ、漏れて掠めていく吐息。目を細め見つめる。うっすら開けられたまぶた、多分同じくらいの瞳の開け具合。それがどう、と言うわけでもないけれど何となく満足して、順々に唇を落としていく。頬に首筋に。耳をかすると蓉子はまた閉じてしまった。だから今の表情は彼女自身も知らない。


一度長く重ね合わせた後、緩やかに下りていく。いっそ服も破ってしまいたい、けどやったら蓉子は怒って途中でやめられそうだから、自分に言い聞かせ手を動かす。意図せずして素肌に触れた指先に反応するのが可愛い。胸元から下へ。段々と故意になっていく。


「せい、」


呼びかけは甘く、耳元で溶けていく。お礼に抱きしめる。蓉子の腕も絡みついてきた。優しい束縛が嬉しい。外したく無くて、誘われるままに口付けた。背中に爪が立てられるまで、蓉子を堪能する。口内の温度が同じになるまで唾液を交換し合う。


銀糸は首元を伝った。震えた肩先を甘噛み。鎖骨までの道筋を執拗に辿ると、次第に声が漏れ聞こえてくる。シーツについていた手を右胸に添える。小さく息を飲む音が、した。


「……っ」


ずっとこうしていたい。間近で蓉子の声を聞きながら、彼女を抱きしめていたい。会えなかった時間を埋めるように強く。聖なんていつもふらふらと出かけるくせに、と彼女に怒られた数は多分両手では足りないのだけれど。現金な私は今このときが一番の大問題なのだ。ぺろりと舐める。自分のつけた跡を更になぞり直していく。


「や、せ……っ」


そこばかりしないで、と首が振られる。
今回ばかりは別に焦らして無い、私の指は確かに蓉子の弱いところを這っている。それでも彼女は足りないと言う。


「蓉子、寂しかった?」


遠回し過ぎる告白。私は寂しかったの。だから、いいでしょう?
蓉子を染めたいんだ。私の色になんて大それたことは言わない、ほんの少し身を任せてくれるだけで良い。たまには私にしか見せない顔をしてみせてよ。


実際に告げた訳じゃない、けれど蓉子は潤んだ黒耀の奥のとても鋭い眼で。私を見つめ、そっとなぜた。置いてかれた子どもみたいよ、と優しい弧を描く口元。大きく分ければ3度目のキスは彼女からだった。


「……は、ぁ」


目眩がする。欲求のままに動いた指が入り口に辿り着く。そのまま滑らせて、濡れきった場所を往復する。水音とくぐもった蓉子の喘ぎとが脳内にがんがんと響いて、理性はもう切れる寸前だった。止まらない。止まれない。


あっさりと侵入を許され同時に蓉子の喉元がさらされる。バランスを崩して豹変して、私にしがみついてくる。余裕が無いのは私も同じだと、いや寧ろ私の方なのだと、理解していたから。なるべく最短ルートで、と奥をかき回す。ささる爪も心地よい。何もかもが遊離して蓉子しか分からない。


「…………!」


最後の悲鳴を、飲み込んだ。


蓉子の隣に寝転んで指に残る滴を舐めとっていると、ほんのり赤い目元で睨んでくる。説得力はちっとも無いけれど、私の大好きな表情。思わず上がる口角。自分の唾液でますますきらめいた手を伸ばす。中指を躊躇無くくわえられ今度は私が息を飲んだ。軽く首を傾げられ、微笑まれるともう私はかなわない。


「……寂しかった」



夏の長い日は漸く沈んで、蓉子は私だけに微笑む。
久しぶりの逢瀬はまだ、始まったばかり。





















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