2 2 時 の 水 音 ( 蓉 子 )











駄目、と呟く唇の、その理由を私は知らない。微かに首を振る、それは多分自分に対して。迫り来る聖の感触を、必死で拡散させようともがく。正面から受け止めるには、私は未だ臆病過ぎた。そして弱すぎた。無造作な髪が胸元を掠めるだけで、息が止まりそうになる。



ぎらぎらと光る両の瞳は、私のそれと結びつきはしない。もう腕に引っかかっているばかりの肩紐が、中途半端な拘束で私を縛る。食い込む痛みは爪よりも緩い。抓られた肌、鬱血の周りに花びらを散らしていくのを、感覚だけで想像する。咲いた、散った、散った。感じているのか痛いのかは分からない。呻くような声は空気の塊と共に吐き出された。



聖はいつも唐突だ。その癖執拗で、更には気紛れ。呼ばれて振り向いたらディープキス、なんて。腹立たしいけれどとっくに許容範囲にさせられていた。馴らされていくにのは何の益があるというのか。記憶すらなぶられていく熱に、流される心地だけを覚えている。



橙色の電球に、目を焼かれる錯覚。
板張り、フローリングを滑るつま先が掴みたがるものは遠く。壁に押し付けられる手は空気を抉った。ひとまとめにされて、口接け。強情だね、笑う彼女の息が、珠になって私の上を転がってゆく。



私が雨を嫌いなのは、多分聖が嫌がるからだ。繊細な彼女の言動までが、細く儚く揺れて行く。湿る髪に梳き入れる、私の指ばかりが熱い。抱き寄せて、けれど捕らえられるのは私の方。無機質なガラス張りの水槽の中。
粗雑とも思える乱暴さで押し上げられるとき、何故か、どしゃ降りの雨を思う。



痺れを残す触れ方に、耐え難くなり目を開ける。歪む聖の姿、音もなく滑り落ちる最後の一枚が水面に浮かぶ。鎖骨に立てられた歯、ほどかれいつの間にか縋りついた先の肩。華奢な癖に安心感のある、我を失った先の砦。薄桃色が吹雪くかのような視界が廻る。聖が私を突き動かして、全てを肯定させようとする。



抑えつけられた腰に、響く水音が。くぐもった悲鳴となって突き抜ける。何処かノイズにも似た残響。暖かい、と呼ぶには高すぎる熱を抱かれた流れが逆流してくる。全身に広がるこの温度を、安堵と呼んでいいのかは分からない。ただ、くだらない否定が出来なくなって、もう終焉はすぐそこだということだけは、確か。



堕ちる前に囁く告白は、粘性をもって自分の鼓膜にも沈んでいった。























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