ひとくちじゃ足りない、ふたくちで癖になる。みくちになるともう私はあなたに夢中。








 give me you









「ん……っ」


お菓子はどこまでも甘く。粉砂糖より優しい舌触りが嬉しくて、こそぐように舐ればあなたの震えは直接私に与えられる。とろりと溜め込まれた私とあなたと甘味とを、早く飲んで、と催促する。


溶かされたチョコレートは流れるままに冷やされて、新たなコーティングを作り出す。喉元を擽る指先が受け止めた一部は蓉子の唾液で薄まって、生暖かさを私に伝える。蓉子の体温と混ざり合っては私を喜ばせ羨ましがらせる。ほんのりとしたあたたかさ。蓉子の熱。



「せ、い」


私に固定されてしまったから、首を振ることもできない蓉子は潤み蕩けている。甘い甘い吐息を私にかけながら、膝頭にそっとしっとりとした感触を押しつける。はやく、って心の声は聞こえるけど、でも、もう少し。

だって食べ物を粗末にしたら、蓉子は後で怒るでしょう?



「ふ……っ」


最後のひとつを舌に乗せて、深く深く口づける。苦しがらないように時折呼吸のための休憩をとって、だけれど唇どうしは離れないまま。なかなか飲み込めずに、蓉子の口の中で、量を増やすばかりのチョコレート。私が、どんどん、混ざっていく。いくらでもあげるから、そんなに貪欲にならなくてもいいんだよ?



「や……」


どこもかしこも潤い濡れているのに、掠れ掠れな声。琴線を擽る響き、やっぱり私に甘ったるく絡みついて纏わりついて染み入って。解放してやると僅かに宙を泳いだ後、耐えきれず回された手が、かきむしる背が熱い。口の端から零れた液体を拭ってやりながら、私は蓉子の懇願を聞く。聞き流し出来る限りの軽さで笑い、煽る。



「…聖っ、…お、ねが、い……」


シンプルだけど大粒なミルクチョコの、後を引く甘さを持て余して。お裾分けのつもりで胸の頂にそっと口をつけると、震えた蓉子はいやいやと首を振る。顔を捕まえてた手は腰の辺りをさ迷い尾てい骨を掠めそれから背骨を丁寧になぞって行く。このままもうひと箱開けたら睨まれるかな、泣かれちゃうかな。尖る欲望を舐めながら、うっすら色の残る唾液で蓉子を更に濡らしながら、私はうっとりと想像する。立てられた爪がくい込んできて気持ち良い。もっと、もっと刻みつけて。



「もう……無理っ……」


もう、おなかいっぱい?

いっぱいあげるって約束した、今年は交換し合おうってふたりで決めた、恋人たちのお祭りのひとつ。作為的な行事を、馬鹿らしいって貶すよりも、楽しんだもの勝ちだって笑ってしまおうって。私からはおざなりなラッピングのお詫びに、最大級のサービスつきでプレゼント。約束だから全部、全部蓉子にあげる。



「せいっ……!」


焦れて揺れて定まらない腰を、ぎゅ、と腿に挟まれた膝で押し潰す。跳ねるように上がった顎、絞り出された悲鳴は私のいない方へとんだ。息を呑み、ひときわ深く爪が刺さり、そして強張ったままの身体。ひどいやり方で蓉子を縫い止めた私の残酷さに、ついに、涙が零れた。



「あ……っ!」


ぺろぺろと甘い蓉子を舐め続ける私に、横隔膜の震えは泣き声よりわかりやすく蓉子を教えてくれて。右膝が少しも動かないよう気をつけながら、全身を巡り、心行くまであなたを味わう。陶酔が溶けて融けて蓉子に歯を立て食い千切りたい衝動を必死で宥めて。ひくひくと上下する胸のまわりは特に丹念に余すことなく。鎖骨をくわえつうと線を引くと声はいっそう高くなった。



「うぁ……や、ぁ………」


本格的に泣きじゃくり出した蓉子に、ちゅ、と口づけ。紅い頬に、唇に、額に髪に、順番に。切羽詰まった瞳に怯えの色が乗っていて、怖がらないでよ、と耳元で囁く。軟骨をしゃぶり優しく噛みつく。右耳には中まで入れてあげると痙攣のように揺れた。小刻みな震えは、もうずいぶん前から蓉子の肌に走り続け滴る汗が私を潤す。そのくせ渇かせ更に一層求めさせる。



「ようこ」


ほんの少し、動かしてあげると途端に鳴き声に変わる素直なあなた。輪郭に沿って滑らせ掬い取った顔はぐちゃぐちゃで、あげたお菓子はもう跡形もなくて。やっぱりもうひと箱欲しい? なんて聞いたら恨まれちゃうよね。私に飢えている焦燥の表情。私を熱くして、脳髄まで痺れさせて。

ねえ、欲張りなのは、どっちかな?



「…………!」


ぐり、と唐突にいじめた衝撃の余韻が消えてしまう前に。きつく吸いついて、音を立てて啜りあげる。さっきまで泣いてた蓉子は、しばらく何も言葉を発せないまま。

顔が見えないのは残念だけど、蓉子の全部が欲しいから。しばらく舌で転がした後で飲み込むと得られる充足感は、何にも替え難い歓喜で出来ていて。今まで溢してしまっていた分を取り戻そうと、舐めあげ強く吸い取って飲み込んで。欲しがってたくせに、私が欲しくて泣いて泣いて泣いていたくせに、どうして逃げようとするのかなあ。



「あ、……ひ、…ゃあ………!」


ようやく溢れ出た嬌声は、私に降り落ちるトッピング。懲りもせずに甘さを増幅させる、だから私は飽きもせずに蓉子を味わう。いっぱいあげたから、今度は蓉子の番。

交換するって、お互いを満足させるって、約束したよね?



「…聖、せい、…せぃっ……!」


また涙声になりだした、蓉子の訴えは私の呼吸を乱す。今は私の番だから、まだまだ満足しきれていないから、私を欲しがって収縮する中にはまだあげない。ふた箱目の中身を押し込んでしまうのは魅力的だけど、最後に私が飲み込んでしまったら、蓉子にあげたことにはならないし。ここの甘さは蓉子にも譲ってあげられないから、だから、まだ、だめ。



「……ね、蓉子?」


溢れ出るままの笑顔で蓉子を見つめる。ひくりと震えた蓉子の喉が、此処が、身体が、心が、愛しくて。愛しくて堪らなくて、目を細める。押さえてた左手で膝裏から付け根まで撫で上げて、美しい脚の形と震えを堪能して、そしてまた。



「蓉子、大好き」


鼻で口でおおきく吸いこんだ蓉子を、こくんと音を立てて飲み干した。





































6万打有り難うございます。


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