拠り所








「あぁ……あっ…」


ゆるゆると繰り返される、かき回される。

果てる直前までゆっくりと螺旋を描き続け、それから何度も止まってはまたぎりぎりまで注ぐ、つまりは焦らしている聖の中指。教え込まれた快楽が、沸き続けては理性をなじる。ひとこと言えば楽になれるぞ、と刻まれた記憶がこれからの責めを想像させて迫る。強情、と言いながら聖は私に跡を残す。身体にも、精神にも、執拗に、聖しか受け入れられないように。

……どんな聖でも受け入れられるように。


「綺麗に、したい?」


べたべたな肌、もう私の抵抗を邪魔するだけの服。さんざん舐められ唾液を擦りつけられた背中は空気が動くたびにひやりとする。私の体内にあった手で、入り口に固執し口の中にまで押し入ってきた指で、撫でられ摘ままれいいようにされた胸やわき腹は私自身のもので汚れている。うっかり視線を落として見てしまった私に、聖はくすりと笑う。


「もっと明るいところで、蓉子が見たい」


視覚からもたらされた震え、身を捩る私をからかうように耳からも流し込む。かかっていた体重が消える、……その解放は見られることを私に想像させるためのものでしょう?
聖の望み通りに反応する私はもう充分すぎるほどの明かりに照らされていて。実際のあなたの視線を肌で感じぎりぎりのところに残された中指をきつく締めつける。結果押し出されたそれの喪失感に息を漏らす。


「もっと響くところで、蓉子の声を聞かせて?」


ぐ、とまた奥まで差し込まれ腰が逃げる。聖はその動きに合わせて私を回転させ足のあいだにおちつけてから深く唇を割り込んでくる。おかしな擦られ方をしたせいで跳ねた身体などおかまいなしに。


「ん…ふ……はふっ……」


たった1本で、えぐられて。長く呼吸を奪われうまくやり過ごせずに痙攣する私、聖は空いた手でなおも乱そうと触れ始める。宥めるためなんかじゃない、適当な円がくるくるぐるりと、絡みつき引っかかった下着のせいで、聖にしがみつけない私を笑う音がダイレクトに伝えられ。背を反らすと舌を吸われて呼び戻される。それなのに背骨の上に線を引く。もう片方の手の平がぎゅうと押しつけられる。


「しかし、すごいね」

「や………あ……」


どろどろ、と嬉しそうに告げる聖から目を逸らす。ねだりたいのを必死で自制する唇も、鍵のように曲げられた指の歪さにすらよろこびだした彼処も、そもそも身体全体が、ひくひくと震えて止まらない。
聖の視線から逃げ出した私に冷たい感触。


「あっ……やだ………っ」


溢れてこぼれおちて水たまりになった私の、それ。嫌がる私を、快楽で翻弄して、コントロールしながらべたべたと押しつける。本気で嫌なのはわかっているだろうに、あんまりだ。口の近くにまで指が触れて涙が溢れる。やめて、こないで。それは、嫌。


「洗って欲しい?」


ああどうしてもなんとしても言わせるつもり。手段を選ばない聖の強引さ、すべてを使って欲求を満たそうとする無邪気で残酷なこども。これ以上ひどい方に振れられたらたまらない。追いつめられた私の中で動き続ける聖が思考力すら奪っていく。


「……このまま、行こっか」


ただこくこくと頷いた私に聖は不満な顔を隠そうともせずに。それでもどうしても言えない私を咎める愛撫が数回立て続けに与えられそしてすべての動きが止まる。ぶわ、と熱さを認識する私に低い笑い声が届く。


「蓉子も、ことばより身体での方がいいみたいだし」


不穏な発言に目を見開く。聖はにやにやとしながら私の腰に手を回して抱えあげようとする。ずいぶん無理のある体勢、目の前の扉まで引きずっていくつもりなのか本当に入ったままの指先が連動して小刻みに動く。インターバルを与えられ過敏さを増した身体が大袈裟に反応する。


「ああ、その前に全部脱がなきゃね」

「うあっ……、…は、あ………ひああっ!!」


無造作に抜かれ声を上げる私を、ようやく自由にした聖は今度は2倍の質量をもたらして。予想していなかった刺激に大きく跳ねる私はとっさに聖にしがみつく。わざわざ自分から聖の支配を請うかのように、楽になった手を聖の首にまわす。


「…はあっ……あ、あ……あっ…」


中途半端に肩に担ぎ上げられた恰好、わざわざ繋がった部分で押し上げる聖。でも声もちゃんと響かせてね? なんていけしゃあしゃあと、胸が圧迫され喘いで発散することすらままならない私の身体をいじめながら追いつめながら。ぬかるみに滑った足先が、気持ち悪い。


「ほら、ちゃんと見せて」


元よりうっすら開いてた扉、自分の身体で押し開けることになって無機物の冷たさに肌が押し当てられて。
その感触が消えないうちにタイルに置かれる、私を聖は遠慮なしに開く。明るさの違いなんかもう頭から飛んでいる私をじっくりと眺める。


「もう、限界?」


ついにこくりと首を振った、私の頭を聖が撫でる。目を閉じねばついて髪にひっかかったものを考えないようにして、気持ち良さだけをもらうことに集中する。同時にごほうびのように一度じゅくりと擦られ。あと少し。あとほんの少しで、手が届く。


「先にいきたい?」


それとも、きれいにして欲しい?

シャワーのノズルをもった片手で器用にお湯を出す。イエスノーだけで答えられない質問を、こんなときに放る聖の囁きと止められない私のはしたない声が、水音に紛れ聖の表情が湯気で薄れていく。脚を中心に力なくはねる刺激にさえ煽られて。


「ああ、いっぺんに、でも良いけど?」


ぎりぎりまで抗う私の乱れ方すら、あなたが教え込んだものなのに。どう答えたらあなたが喜ぶのか、どうして頑なに抵抗していたのか、もうわからない私。わなわなと震える唇が何かを形づくる。


「蓉子?」


にっこりと笑うあなたの残酷な無邪気さ。熱くて苦しくて、おかしくなりそうな私を目で声でなぶり聖しかわからなくする。


「…ぃで……か、…せ………て」


小さく小さく呟いた本音を聖はちゃんと拾い上げて。雑音をきゅっと消して、上気した頬を私にくっつけて。
ことばと身体両方で私にこたえてくれた。



















ベッタベタにいじめさせてみました。言葉責めに力を注いだつもりが何か他にも色々紛れました。
……え? シャワー編?










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