「埋めて」(聖→蓉子)




量産された、唯一無二で無いからこそ安心できる、お伽噺を昼に夜に語ろう。


有償の愛が欲しい。これをしてあげたから笑顔をくれる、口説き文句が気に入られたから身体を許される。好みの顔だったから一緒にお茶を楽しむというような、分かりやすい図式に甘んじていたい。人はそれを軽薄とか打算的とか言うのかもしれないけれど。


見えないものに、溺れて行くのが怖いのだ。彼女の愛は、底がなくて、一度受け入れたらただずぶずぶとはまっていってしまいそうだから。馬鹿なところも、情けないところも、随分とさらしてきたのに失われるどころか少しも目減りしない蓉子の情は、いくら振り払ってもいつの間にかそっと私に寄り添っている。それに救われていることくらい、分かっている。
分かって、いるから。


目の前の少女が私に笑いかける。私はできるだけ軽薄な笑顔でもって、それに応える。蓉子とは似つかない身体つき。性格。声、表情。
だから選んだ、可愛い子。


そ、と頬に手を当てる。自分の美貌に自信を持っている瞳が私に向けられ、そして目が閉じられる。

綺麗だね、って、本気じゃないから言える見返りを、耳元に囁きながら私は彼女を抱きしめた。

蓉子ならけしてつけないだろうキツい香水を嗅ぎながら私はその肌に溺れていった。

















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引き換えの恍惚(栞←聖×蓉子)




ざらざらと心に砂が、溜まる。


もし転校するのが聖でリリアンに残るのが栞さんだったら、私はいったいどうしていたのだろう。同じように手紙を書かせ、或いは渡し、そしてあんな励ましひとつで、聖を送り出すことができただろうか。学園の責任放棄だと罵りやしなかっただろうか。


身勝手な私を聖が抱きしめる。つ、と伝う涙、聖が慌てた雰囲気で私にしがみつくのを素肌で感じる。ああこれが代償。私は聖の支えにはなれたけど恋人にはなれなかった。


栞さんはいつ現れるのだろう。彼女は志摩子の形をしているのかもしれない、祐巳ちゃんの顔で微笑むのかもしれない。明日かもしれない、50年後かもしれない。もし一生現れなければ、仮初めが永遠に続けば、私は聖の恋人だったと誇れるのだろうか。


ざらり、と身体の奥底で蠢く聖の指が、私の奥底を摩擦し責め立てるその感覚が、私への罰であっても濡れそぼり甘い声をあげる私は。本当に私の意思で聖を愛しているのだろうか。


ざらつきが、異物感が酷くなり私は涙ながらにまた喘ぐ。


あなたを送り出したとき確かに感じた背徳の安堵感を、私は生涯忘れない。











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瞼にふわり(志摩子×蓉子)




諦めて、目を閉じる。


視界を閉ざすと得られるのは歪な安定。逃避でしかない行為が見えなくなって、ほ、と漏らした息が、近づいていた志摩子の顔に反射して戻ってくる。喉の辺りをくすぐられ、腕が一瞬かすめた鎖骨の方に反応すると、すぐに弱点に狙いを定めてくる。目敏い子だな、とためいきをひとつ。彼女の想い人もこれくらい敏くあってくれれば今私がこうしていることも無かったろうに。


「蓉子さま」


彼女に取ってはより馴染み深いだろう通り名で呼ばないのは、せめてもの免罪なのだろうか。免罪、謝罪、罪という言葉がこれほど似つかわしくない少女もいない。
胸に吸いつかれ反対側を執拗に揉まれ、思考できる余裕がなくなってくる。指で弾かれ堪らず呻くと一瞬動きが止まりそれからもう二度三度と間隔を空けて。優しいのかそうでないのかよく分からない。


ふ、と身体の上の重みが消えた。不思議に思い目を開けようとすると宥めるような口づけが私の瞼の上に乗って。ごめんなさい、と小さく聞こえた、だから私はあなたに縋らない。


それで良いのでしょう? とそっと問いかける。私を見もしない想い人とよく似た繊細さを抱えこんだ、あなたに。












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爪とレンズ
(江利子×蓉子)




蓉子は聖が好きで、聖も蓉子が好きで、それなのに私の腕の中にはこの子が丸まっている。ふらりふらりと聖がさ迷う程、強固にしがみついてくる。正視しているのに制止できない、青褪めた頬。歯の根が合わず震えるこの子は、きっと文字通りの遭難者。誰よりも強い意思と覚悟で、誰よりも自分を追い詰めて追い詰めて壊してしまった。


誰かがね、聖を諦めろって言うの。


ゆらりゆらりと微笑う蓉子。それはあなたの本能だと、擦りきれもう悲鳴をあげることもできない精神を代弁しているのだと、


私には、言えなかった。


(鋭いはずの凶器に傷つけられるのはあいつでも私でもなく、)












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名前は呼べない(令×蓉子)




……ごめんなさい。
心の中で何回、謝ったのだろう。


想い人に? 親友に? 彼女の想い人に? 彼女の恋人に?

姉、妹、親友、彼女、背徳が積み重なって、雪崩れを打って、もう元の形なんて分からない。


優しい箱庭の棘のあるところを選んで歩いている。ぐしゃりぐしゃりと傷つくことが、当たり前になって私は安堵を得た。私たちらしくない乱暴な交わりが、危機感覚を麻痺させる。繊細な指先を捩じ込むあなた、乱暴に爪を立て悶える私。苦しくて苦しくて、苦しいから救われている。


……は、ぁ、……っあ――――!


呼びかけた名前を呑み込んで、私はまた身体を反らす。


まるで目の前の現実を拒むかのように。










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微エロ10題後半戦。
当初は蓉子総受の予定だったので名残として令や志摩子に襲われております……年下攻大好きでs










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