ドレイン







すぐ眠くなってしまうから、と私が飲む時も専ら話し相手に徹している蓉子が、貰い物の缶ビールを開けていた。
何か腹に据えかねることでもあったのだろう。第一ひたすら甘党の蓉子にビールなんて飲めるのかしら。面白そうだから放っておいたら知らぬ間に2本目が開けられその缶の残りまで少なくなっていた。


「蓉子、そろそろ寝たら?」


睡眠も勿論忘却の良い手段だ。私に話してなんとかなる、或いは軽減される「嫌なこと」ならとっくに愚痴られているという自信がある。彼女ほどの聞き上手とは言えないがお互い付き合いは長い。無意味な遠慮をする間柄でもない。


「ちょっと、蓉子」

「……いや」


首を振る蓉子はこどもの目つきで私を見上げた。
正直、うわ、と軽く仰け反りたくなるぐらい強烈だった。しかしこれからのことを考えるとそうそう鼻血を出してもいられない。いくらイノセンスに見えても生身の身体にはしっかり酔いが回っている。つまりこれ以上鑑賞していてもろくなことにならない。


「バカなこと言ってないで、自分で立ちなさい」

「…運んで、江利子」

「無茶言わないの」

「江利子にしか、言わないわ…よ……」


本当にぐんにゃりした酔っ払いにこれでもかと体重をかけられた挙げ句、こんなはた迷惑な告白で舞い上がれる奴がいたら、どうかしている。
全くどうかしている、と思いつつ、気持ちだけ力のついた腕で頑張って蓉子を支え引きずり放り投げる。きゃっと悲鳴だけは変わらず可愛く、布団の中に埋没したしょうもない恋人。


「……えりこ、ひどい」


もう半分は夢の中に足を突っ込んで、残り半分でアルコールの海を漂いつつ私に語りかけている蓉子はむにゃむにゃとそのまま布団に埋もれた。面倒な後片付けは明日本人に任せよう、とセミダブルに自分も乗り入れる。流石にベルトくらいは緩めてやらないと不味い。まあまとめて剥いでしまえば良いか。


「強くないくせに無茶するからよ」

「えりこの前だけだもん」


それさえあれば万能の免罪符、とでも言わんばかりに連呼されるとちょっと凹む。何がって勿論いちいち舞い上がる自分に対してだ。うつらうつらし始めた蓉子を下着姿にして、仕方ないからサービスで服をたたみまでしてあげて。蓉子寄りに羽毛布団をかけてやるとくすんと一度鼻を鳴らして蓉子は呆気なく眠りに落ちた。呼びかけてもぴくりとも動かない。

割に合わない労働の分明日の意識の飛ばし方はもっと強烈なものにしてやろう、と頭の中でふたりのスケジュールをぺらぺらとめくった私はそう決める。利子の分はまあこの寝顔で勘弁してあげることにして。




























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