片手(聖志)






嗚呼。

まるで

静か

な、









「……綺麗ですね、お姉さま」


振り向けば、志摩子がいる。それは当たり前のことなのだけれど。彼女からこんなにも抽象的に話しかけられるのは、何だか余り無い気がして。
そう、「お姉さま」と、まるで後で付け加えたかのような言い方は矢張り。



珍しいけど、嫌いじゃないよ。

勿論、と微笑った。僅かに朱の差す彼女の顔。こっちの方が、綺麗だ。
……いや。ゆるりと首を振る。綺麗なんて陳腐な言葉は、彼女にそう簡単に伝えてはいけない。言葉なんかで、伝えてはいけない。


だから代わりに手を掴む。他の人にするよりも、遥かに、そっと。落ちてくる羽を捕まえようとするときのように。結局手からは離れてしまうことを知っていて、それでも。
うん、確かに珍しいかもしれない。けれど実は少し「らしい」んじゃないかと。自分では思っているんだけどね。



……そうですか。


何がそうなのかなんて、多分二人とも正確には分かっていない。曖昧に微妙にずれているライン。そこが安心出来て、けれどたまに切なさを引き起こす。


静寂の中、二人して手を触れ合わせて囁き続けるんだ。大丈夫。私はここにいる。だから、貴女もここにいる。半年間だけ濃い、溶けても未だ足りないような世界を造り出すことも出来ただろう。けれど。
そんなことをしたらその先、きっと生きて行けない。



段々と手のひらの温度が交じり合っていく、感覚。ほんのりとした幸せはどこか、気恥ずかしさも生じさせる。志摩子の方が体温は高かったようだ。力を緩めても離れない手の平と手の平。

シャリンと小さく金属音が揺れる。ロザリオの鎖は温もりが残っている。一瞬触ってすぐに離れていく。




「うん、綺麗だね……、志摩子」

返事が来るとは思っていなかったのか、きょとんとした表情。すぐさまかき消されていってしまうものだけれど。単純に愛しいと思いそしてそう思った自分に。今度は私から、紅くなってしまうんだ。




……うん。本当に、珍しいね。

風すら無音の中、微かに思う。


……ええ。でも、嫌いではありません。


聞こえなかった。けれど。
志摩子の答えが確かに聞こえた。
























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