枯れ葉の紅 Ⅲ
カツンカツン、と敷石をわざと蹴りながら踏み入れた先に、嫌な顔を見つけた。
よっぽど踵を返そうかと思ったが顔をあげらればっちり視線もあってしまったとあれば、このまま帰る選択肢は嫌でも潰される。更に不本意ながら今日の私は用事を言付かっている身なのだ。非常に腹立たしいが。 全てから逃げることが格好いいとは思わない。すべきことはする。最低限は。
「どうしました?」
「敬語、やめて」
こいつみたいに余分の貧乏くじを喜ぶ変態ではないし、伝統だの作法だの、馬鹿らしい大仰さは嫌いだ。 苦々しさが滲み出ているに決まっている私に深々とお辞儀の後に挨拶、空気にまで折り目が入りそうなくらい丁寧で苛立たしい。
「そういうわけには」
「私がやめろって言ってんの。 やめて」
ふう、と息を吐かれる。 睫毛と共に一度閉じた瞼がゆっくりと開かれた時には、私への敬意の色が変わっていた。
「どうしたの?」
江利子に用?
態度にささやかな矜持が見える。 何に対してかはわからない。知りたくもない。
「呼び捨てなんだ」
「……ええ」
ゆるく振られた首は、相変わらず寒々しかった。くだらないことを覚えている自分に嫌悪する。
「あなたの名前は?」
「……佐藤聖」
あれから幾度か見かける内に、嫌いな種類だと完全に認識された。 そんな相手に何故名前をとも思うが、名乗らねば引き下がられるのは目に見えている。 そうだそれにこいつには取り次ぎを頼まなければならないのだ。江利子の代わりだと思えば幾分マシだと思えなくもない。
「佐藤さん」
「聖で良い」
「…聖さん」
いやしかし江利子つきのこいつだとまずは江利子に報告されるんじゃないのか。 寒い中を門前で待たされるのは御免であるし、江利子の顔など更に見たくない。 ……そういえばあれから江利子と一緒にいるところを見ないな。
「いつもここにいるの?」
「この時期は、毎日掃かなきゃいけないから」
ばかでかい樹に目をやって、終わらない仕事をさせるそいつに愛しげな表情を見せる。理解不能だ。
「でも半分は好きでやってるの」
落ち葉って、綺麗でしょう?
その笑顔は何故私に向けられたのか。
「……くだらない」
焼き芋でも作ってればいいのよ。
負け惜しみは宙に浮いていた。
→Ⅳ(coming soon...)
|