カルマ
「それで、あなたは祐巳ちゃんの膝枕を堪能した、と。」
「……なんか含みがない? その言い方」
祥子と祐巳ちゃんに発破かけるためにこれ見よがしにパフォーマンスしてみせた、だけなんだけどな?
祐巳ちゃんは可愛くてお気に入りだし、祥子は意地の張り方がなんとなく私に似てるとこと蓉子に似てる部分とがあって見てられないっていうか。からかいはするけどさ。したけどさ。
「まあ楽しかったのは確かだけど」
ごく間近で百面相が見られたのとぷくぷくの感触(太股とかほっぺとか)をもらったのは役得の部類に入ると思う。
はにかんでお礼を言ってきたさっきの祐巳ちゃんもすごく可愛かった。ついついいじるのに夢中になりすぎて実際どこまで進展したのか聞きそびれた。
「気持ち良いのは、蓉子だけだよ?」
惜しみなく与えられるその愛情を、中々目に見えるかたちで返せないのが申し訳なく思えるくらい。
「……そう」
……今の今まで祐巳ちゃんとのノリの延長というか、軽い気持ちでぽんぽん会話していたつもりだったのに。
急に蓉子の雰囲気が変わった。すっと壇上からひかれて、まるでそれ以上の評価を拒絶するかのような。
「……蓉子?」
心情の揺れをすぐに浮かべてしまう私の声は情けなく部屋に響いた。蓉子だから、今更取り繕う必要もないって、いつか切ったリミッターはずっと外されたまま。蓉子の前で愛想笑いしなきゃいけなくなるなんて想像したくもない。
「なんでもないわ」
相変わらず私の干渉を、拒んでいる笑顔。
蓉子のなんでもない、が、なんでもなかったことなんて一度も無い。
それは、私にとって嫌なことは起こらないっていう、事実を示してるだけ。
「……やだ」
蓉子は私と違って、恋人に全部何もかもを預けたりなんかしない。
自分と全く同じ振る舞いを望むなんて間違ってるし、私自身、蓉子にそう望んではいない。
だけど。
「ちゃんと話してよ、蓉子」
がむしゃらに抱き寄せる。縋っているのも傷ついたのも最初から私だったかのように。蓉子を近づけて、蓉子に近づいて、無理矢理にでも本音を引き出そうとする。
だって、蓉子が。
「……嘘つき」
「え?」
「私だけなんて、そんなわけないじゃない」
小さな声。服とか抵抗とかいろんな障害物に邪魔されてぎりぎりの状態で私に届いた、沈痛な。 私はそれでも良いって思ったのよ、受け入れてみせるわ、今はただ不安定なだけなの、大丈夫、大丈夫だから、
だから、離して。もがく腕が布地を滑る。
「やだ」
悲しかった。違うよって否定できない私が、清算も言い訳もできない私の諸行が。そしてそんな過去を掘り返した蓉子を恨んでしまう私が、とても、悲しかった。傷ついてるのは蓉子なのに。私が傷つけたのに。
「蓉子ぉ……」
だけど蓉子を離すことだけは、私には絶対にできない。
ぎゅうと私に近づけて、圧迫して、押し潰して。きちんと抱きしめることもできない私の腕の中で、蓉子は静かに泣いていた。こんなときでさえ声を抑える蓉子。こんなときでさえ甘えようとする私。
「……せ、ぃ」
お互いのことが好きなのは、大事なのは、一番に愛してるのは、嘘じゃないのに。
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