あなたのゆめ






知ってる。その笑い方は、嫌なことをごまかしている時のもの。


ちくりと刺さる棘は、私のやわらかいところを選んで傷つける。白い薔薇の名残か、彼女が内に飼う野獣の爪か。刺さった、と気づいても、私にはどうすることもできない。もっと抉らせるために、近づいて、抱きしめようと腕を広げるだけ。強いふりをしている心を、差し出すだけ。


泣き顔は見られたくないだろうから、胸にそっと抱き抱える。今のあなたを引き留めるために必要なのは、辛辣な真実でも反発を生む説教でもなく、見返りの要らないぬくもりだから。重たすぎない、軽すぎない。条件さえ満たせば、誰のものでも構わないぬくもり。


私でも、勿論、私でなくとも。


積極的にとは言えずとも、私を選んでくれたのは、やっぱり嬉しくて。飄々とした力強さを得たように見える彼女が翳る姿は私の何処かの琴線を擽る。不謹慎にもあがりかける唇をきつく噛んで、抱き寄せる手の優しさにかえる。求めてはいけない。求めることは、求められては、ないのだから。


知ってる。今私がここにいることに、必然性はないことくらい。


忙しなく吐かれていた呼気が、だんだんと落ち着いて。何かを確かめるような大きなものに、ため息にも似た深呼吸に変わり行くのを服を幾重にも張りつかせた肌で感じる。多くを共有していることから生まれるめまいは許されるものではなく、封じ込める酩酊はぐらぐらと私の根幹を揺する。


良い子でいたい訳じゃない。でもこの立場でなければあなたの隣にはいられない、から。


きっとこの痛切な切なさすら幸せの記憶として認識されるのだろう未来。抱きしめている感触なんて、一体幾度思い返せば昇華させられるのだろう。独りの身体を熱くさせる、沈めた闇を詳らかに顕現させる、あなたの弱さを貪る私。どこかで履き違えてしまった建前と本音。


あなたの望みに合わせて、とん、とその肩を押しやった。震えるのは心だけでいい、あなたは永遠に気づかなくていい。何度でも幸福な恋愛をして、自由な腕で欲しいものを求めるままに掴んでいてくれればいい。


知ってる。私が渇望される日がやってくるかどうかなんて、誰よりも。


あなたが求めるたびに遠ざかる希望は、いつからか諦めより深い底に落ちた。代替の模造品が出来過ぎていて、もう存在を意識することも殆ど無い。


謝罪も感謝もしないままでいてくれるなら、私はもう少し正しくあれる気がするのに。


けして求められない部分が疼く。あなたの役に立たないのなら私にも不要なはずなのに、消えてはくれないごろりとした感情。呑み込むことしかできなかった、あなたのせいで変質した異物。


あなたが気づかないでいてくれる限り私はまだ大丈夫だと、ひっそりと笑う。


あなたの、聖のさっきの微笑みの方がずっと建設的だったと、ぼんやりと、思いながら。





















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