3、It finally noticed.









江利子の買い物に一度付き合ったことがある。一度、と言うのは何処かしら奇妙な感じもする。ただ私の用事は何も無いのに、純粋に江利子のためだけに店を回り商品を物色した思い出は何故かその一回きりだった。地下街をさんざ歩き回って駅ビルのエスカレータを昇降し、高めのヒールのせいで足が痛くなった頃江利子は漸くお目当ての物を探し当てた。確かアクセサリの類、そう、私の記憶に間違いが無ければ令へのロザリオだった。ということは未だ二人ともリリアンに籍を置いていた頃だ。概ね無邪気に青春を謳歌しまたそれが可能だった時期。



懐かしい、とは思うが帰りたいとは思わない。記憶はやがて思い出に変換されその過程の中で取捨選択され曖昧さを繋ぎ合わせ美化されていく。良い所だった、と無条件に思えるようになるには、私には少々記憶が残り過ぎていた。生々しさ。そう呼ぶべきものが残っているのだ。



だからリリアンを出て暫くして、久々に江利子に会った時。私には余り感慨というものが感じられなかった。そういえば久しぶりね。昨日今日明日の線上に未だ江利子は乗っていた。千切られて箱にしまわれてはいなかった。



素気ない江利子を見ても私が疑問視しなかったのもそのせいだ。学友だった頃から彼女はそうだったから。さらさらと掴めない彼女。私に掴めないのは当然だと感じていたし誰に捕えられることもないだろうと信じていた。信じるどころか、考えたことすら無かったかも知れない。地球が自転しているのも一日が24時間なのも北極の熊が白いのも当たり前だ。疑う余地は無いし特に信じるべき事柄でもない。






ピッ


……嗚呼、また。


小さいが自己主張の激しい電子音で我に返る。時報を告げる、音。無機質さが嫌いだと言いながら何故か一つだけあるデジタル時計に、江利子が悪戯に設定した時報。毎日きっかり2回、6時にだけ鳴るその音を私は殆んど聞いている気がする。

マーキングのつもり、かしら。

彼女の猫のような部分をふと思い浮かべてしまい私は笑った。同時に少しばかりの驚きを感じる。まだ、江利子のことで笑える自分に対して。それは純粋な感動と共に一抹の寂しさを引き寄せた。彼女がいなくても生きていける自分。生存本能としてそれは、普通である筈なのに。
ぼすりとソファにダイブする。私らしく無い、と思いそれに安心感を感じている自分に今度は苦笑すら覚えてしまう。



私はきっと甘えていたのだ。



理解してまた涙が溢れた。


























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