Re:ject











彼女の気持ちは知っているけれど、彼女の意図はわからないままだ。


あらぬ方を向いて唇を噛み締める蓉子の華奢な肩は、呼吸するたびに大きく揺れる。我慢してるのは声だけじゃない、その証拠に瞳は潤んではいるものの蕩けきってはいない。邪なものに快楽すら邪魔されている気配が、目元を漂っていてそれがまた私を意地にさせる。

どうせ今の私の役回りはお子様なのだ。自分ひとりで抱えていられない苦痛を、蓉子に押しつけて転嫁を試みる未熟な人間。


やさしくした方が蓉子を傷つけるから、だから、乱暴にする。


「ぅあ……っ」


捩じ込む指を増やすと顎があがった。

綺麗な曲線は限りなく直線に近く、波打つように震える声帯を皮膚の上からなぞりあげる。ここから漏れでる声が嬌声より悲鳴に近しいのもいつものことだ。
常態。最初は一度きりのつもりで、二度目も三度目もこれで最後だと思っていて、次回などというものの存在を疑い無く受け入れるようになったのはいつ頃だったか。

最近は、終わって別れた晩にはもう今度のことを考えている。


「んん……っ!」


突き上げと同時に押し潰すと、蓉子は一瞬で上り詰めた。篭らせっぱなしでは苦しいだろうに、唇は引き結ばれたまま、両手も体の脇で拳の形に握られている。蓉子の首もと近く、宙に浮いていた左手で強情な唇を撫で、弛緩を始めた内部で3本をゆるくかき回す。

今口を開いたら指を割りいれられるのがわかってるから、蓉子は、いやいやと首を振るばかり。堪えるために目を瞑ってくれてるから、私はかわいいその姿を目を細めて堪能することができる。

たくさんの暗黙知と合意が積み重なってるのに、どうしてこの形なのかと、いくら考えたって。


撫でさすり爪で引っ掻き、好き勝手にいじめていた唇を解放すると、蓉子は身を捩りながら目を開けた。頑なに守りきった口腔も開き、大きく息を吐く瞬間に合わせてもう一度陰殻を捻りあげる。


「んぐ……っ」


予想してなかったとは言わせない。

噛み殺す勢いが良すぎて血が滲んだ気配がする。
あの刹那に指を滑り込ませていたら、噛み千切られていたかもしれない。暗い興奮を覚えるが、それをしてしまうのはルール違反だ。
傷つくのは蓉子じゃなきゃいけなくて、蓉子は傷つかなくちゃいけない。

見開かれた瞳はもちろん私をうつさない。


思う様吸い込むことを許したのは久しぶりだったから、慎重に、余韻を引き伸ばしていく。蓉子が理性を焼き切る寸前まで求めたいけれど、肝心なところでヘマを踏むのが私な気がして、つまりは臆病で。それでもぎりぎりより半歩下がった地点までは。
逃げをうつ余力もなくなった肢体が、ただ、過ぎた快楽に身を震わせる。
私の荒い息がかかる上半身が、身動きの取れない下の分まで揺れ動き、時折私に当たる。両腕が自由ならば抱きすくめたい、押さえつけ抱き潰してしまいたい。
愛してると耳元で囁きたい。


好きじゃない相手に抱かれるひとではない。

私が惹かれてしまった、水野蓉子という人間は。

























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