fall in spiral











世話を焼きたい、が愛情になることって、あると思う?

はい、
あると思います


なんだか教師と生徒のようだ。
志摩子の属性と真面目さのせいで、牧師と信者にさえ見えるかもしれない。


じゃあその逆もあり得るとは思わない?


先生役も先導者も私はごめんだ。
戯れに肩を抱けば志摩子はこちらをちらりと見て、それから身を預けてくる。
聖が同じことをしたら目視確認はしないだろう。蓉子や他の子ならこんなに至近にはならない。不器用な甘えを、微かな笑顔を持って表されるのはとてもうれしい。


逆、とは?


ささやきにも近い声だった。


愛してたけど、ただのだいじ、になったってこと


枝葉の省略はリスキーでたのしい。ぞくぞくする、と言い換えたっていい。
首を動かさずとも志摩子が見える。委ねられた態度にキスはしないそれ以上もしない。それを許されたという前提が作り出す空気がとろりと周囲を停滞させ、懐かしさに少しばかり笑いたくなる。


江利子さまは、紅薔薇さまが大切、なのですね

まあ、聖よりはね


重みを帯びる前に返すのは年長者の小狡さだ。
不満げな雰囲気がわずか一瞬にたちのぼって弾け、志摩子は好きにされる権利を行使して非難に替えた。

そういうところは、似ていると思う。
ごく短い期間、同じ空気を共有した令よりも。
鏡というよりは水面で分かたれ反射してるようだと見ている、聖よりも。


お姉さまより、ですか

蓉子のことよ?


この重苦しい空気と、志摩子に自分。
冷静に見つめられる余裕は皮肉に過ぎない。いっぱいいっぱいな志摩子を、いっそ見守る心地で、私は彼女の心音を聞いている。


……わかってます


ごまかさないでください、と呟く志摩子に、ごまかしてないわ、と囁き返す。陳腐な応酬。くだらないと切って捨てたら、そこでおしまいになるだけの。
この場を見られたら怒られるだろうな、と思う。誰に見られても。私が糾弾され志摩子は同情される。
同じ情などもたないくせに。


ごめんなさい、


もういいです、と言いかけたのを知っている。
謝ることで志摩子が楽になるなら、それでいいのだ。


江利子さまじゃなくてもよかったんです

私でもよかったならいいじゃない


なぜこの年頃の子は必然を求めるのだろう。
一年と少し前と、ちょうど二年前を思い返し、性格でも性癖でもなく年齢で彼女たちをカテゴライズして、少しばかりの憐れみを無責任に注ぐ。
たまにはその囲いの中に私自身も入れたくなったのだ。

ああでもこれじゃ聖も入っちゃうわね。

声には出さなかったはずなのに志摩子がぱっと顔をあげた。



何を考えてるんですか

それはいつの話?

……ごまかさないでください


今度のことばには確かな怒気が含まれていて、よくよく見なければわからないくらいに朱の入った目尻を捉えて私は心中で安堵する。
今まで付き合ってきた相手の中で、愛情表現がいちばん分かりにくいのは間違いなく志摩子だ。
結局自分は妬かせることしかできないのか、という自嘲には過去の彼女たちの影がちらつく。


ついさっきのことなら、……聖かしら

……おねえさま?


驚きのあとに浮かべた表情の複雑さは、そこに混ざりこんだあの感情は、


……自業自得ってやつね

はい?

んーん


見上げる姿勢がきつくなってきたので身を起こして抱きしめる。あの、と戸惑う声が耳元で聞こえるのは気分がいい。


あなたに妬いたの


全く、この私が、彼女に見られながらじゃ吐露できそうにもない、と思うなんて。


……理不尽です、江利子さま


その声が嬉しそうで私の方こそうっかり舞い上がってしまっている。


全くだわ


だいじだし、愛してるのよ。
無責任にもね。


























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