(聖×江利子)









焼き芋がしたい、と聖が急に言い出した。

幸か不幸かそのとき薔薇の館にはふたりしかいなかったので、必然的にそのお相手は私ということになる。最も蓉子がいたらその意見はとりつく島もなく切り捨てられて終わっただろうけれど。
私は聖の顔を褒めるのは余り好きでもなかったが、願いが聞き届けられたときのこの表情はなかなか羨ましいものがある。
なんというか、一瞬だけ周りから色が消えるのだ。みんな聖に吸収されて、一種神々しいくらいの空白。
そんなこと勿論本人には絶対に言わないから、私はただコートを持って階段をおりる。
頭上からする慌てたような物音がおかしかった。




桜並木は閑散としていた。銀杏の葉で焼くのは嫌だ、と私は言った(何しろこの季節なのだ、)ので私たちはここで落ち葉の層をひっかいている。
まさか両手で抱えて運ぶわけにもいかず、私は竹箒でやや乱暴にかき集める。

がさり

足下は不安定で虫が捕食しているような音を立てている。パリパリと羽まで食べられてもなお弱者はもがく。諦めるのはこんなにも、容易いのに。
何を勘違いしているのかたまに通りかかる生徒は称賛の眼差しを送ってくる。この先煙をあげる小山を見たらどうするのだろうか。漏れた笑いは虫の音をかき消した。

逆風に舞う欠片は踊りながら、私から逃げていく。



どう?と聞かれても実際答えようがないのだが。まあそこそこ、の収穫をしたところで私は手をとめ木にもたれることにした。
聖のと合わせれば上出来の部類に入るだろう。箒は掃く動作をすることで、少しずつ心を削りとっていく。パリリ。逃げようとした羽虫が潰れて耳障りな悲鳴をあげた。


聖の、気配。

幹の反対側に背をつけられる。定位置のようにすっぽりとはまり聖はそれから竹箒を投げ出した。カランと転がって落ち葉にキャッチされている。投げかえされたりは当然しないので、そのまま。


マッチもライターも持ってはいない。勿論、聖にもさつま芋の当てなどはない。

こんな風に時間を空費するのは楽しい。分散し還元されていく小山を見ながら、私は。削りとられた部分をゆっくりと取り戻していく。

そろそろ、いいかな。

伸びをして枝の隙間から傾いた光を浴びれば。



秋を髪の上に乗せた聖がこちらを見て、いつものように笑った。











(×蓉子)








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