気まぐれ (聖・江利子)









江利子が草むしりをしていた。

昇降口から出てすぐの花壇にしゃがみこんで、何をしているのかと思ったら彼女は相変わらずの調子で「掃除」と答えた。それにしては周りに誰もいない。ひとりが嫌いな訳では無いのだろうが、私のように集団に嫌悪感を持っているわけでも無いだろうに。

少し丸まった背中を見ながら私はぼんやりと、江利子の制服に影を落としていた。



それを気にする風でもなく、江利子は黙々と草をむしっていく。時折途中で千切れると一瞬、動きがとまる。なんとなくそれが面白くてだけど笑うところでも無い気がして。
動いているのは江利子の手先だけ。影も時折ゆらりと揺れる。私のものと、江利子のもの、ふたりが混ざって歪な形。重なるところが少し濃い。

陽が、刺すように照っている。私の色素の薄い髪でさえ焦げたような心地。制服はもう発火寸前だ。どうしてこんなことをしているのだろう。腕を組んで首を傾げれば、影もつられて動く。



チャイムが、鳴る。



じろりと江利子はこちらを向いた。全く想定していなかったからもろに視線がぶつかる。無遠慮なのはお互い様だ。
目を反らしたのは珍しく向こうだった。いや、興味を無くされたというべきか。

いつの間にか影は私一人だけ。平等な薄さ。ちょっとだけ寂しい。
二歩進めて、江利子のいたところ。影が焼けついているようだけれど、勿論そんなことはない。夏の盛りを満喫していた雑草が積まれている。明日処理するつもりなのだろうか。多分違うな、としゃがみ込む。普通、除草なんて気まぐれでしたりなんかしないと思うのだけれど。

地球に落書きがしてあった。


「日差し避け、ご苦労さま」


一体いつ書いたのか。江利子の方こそ、ご苦労なことだ。
私はその文字を革靴で消し飛ばす。ついでのように、積まれた草も飛んでいった。掃除をサボタージュしてしまったことが頭の端に浮かび更に縁に消えていく。
小さく欠伸。昼寝をするために薔薇の館にでも行こうかと、鞄のある教室に体を向ける。


最後に振り向いた花壇には、ひまわり。他にはもう何の影も無かった。












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