28回



(……いち、)

心の中で数え始める。
あなたが離れるところで、カウントをひとつ。


(に、さん、…よん……)

かるくやさしくついばまれる私の唇。
かすめるだけの接触の後で、ちいさな音を立てて吸われ。


(…ろく……、なな…)

不規則に落とされ、離され、擦り寄せられ。
時にほんのりとつき出た舌で舐められて。


(…じゅう、じゅういち、……じゅう…に……)

あがり始める呼吸、楽しそうな聖。
やさしいまま、ふわりふわり、…ちゅ、……くちゅり、


(じゅうご、じゅうろく……)

めをとじてしまうと不意打ちにますます弱くなって。


「ひゃ……っ」

……はなのあたまをなめるのは、反則でしょう?
また戻る唇が私を濡らしてとかしていく。ぴちゃ、くちゅ、ちゅ、恥ずかしく響く、あなたの口づけ。


(…にじゅう……にじゅういち?)

沸き上がる私の唾液の方が、音をたてている錯覚。
首筋がつめたい、もうとじられない唇、あなたはまだ入り口にいる。


(……にじゅうろく………にじゅう…な、な……)

ああ……もう、むり、


「……ようこ」

濡れた声。響く音。くずれた私をだきとめるあなた。
じゅる、と吸われた最後のふれあいを数に入れるとするならば。


「……にじゅう、はち、かい」

とけた身体があつくてくるしい。
聖に絡めとってもらえなかった舌が、だらしなく開いた口から勝手に覗く。


「ん、おつかれ」

でもまだいっぱい、がんばれるよね?
じゅく、と、たっぷりの唾液をいちどきに乗せられた耳が、あなたに支配されて私は粟立つ。


「……せ、」

ふは、とはきだした空気が、聖の髪をゆらした。
しあわせ、きもちいい、あつい、くるしい。
……聖が、ほしい。


「は、やく……」

たった28回の口づけで、火がともる。力の入らない腕をあなたにのばす。


「いいよ、蓉子」

聖が落ち着いているのがくやしい。だけど安心できる。声がやさしくてうれしい。あつい。あつい。せい、もう、おねがい、だから。


「ごほうび」

両耳を塞がれた私に押し入ってくる聖の舌は、待ち望む私をますますふるえさせた。
もう数えなくていいから、気が緩んで。
あっという間に溺れていった。













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甘露



「蓉子」

「んぅ……?」

くわえるあなたの指がいとしい。
なかゆびの腹で小刻みに掻かれ、私の唾液をかき混ぜられて。くちゅくちゅと立つ湿った音は、聖がくれるもの。かたい爪先をなぞりだんだんやわらかくなる肌に歯を立てないように気をつけながら。ゆっくりゆっくりあなたを味わう。ちゅうと吸うと聖はその感触を楽しむように抜き差しをして。手首より上全体を、つつみこんでいた手がそっとはがされた。


「ふふ」

うれしそうに笑うあなたは得意げな顔。自慢されているのは、たぶん、私。じわ、と身体があつくなる。心に連動して、紅く染まる。
導かれるまま聖の服をつかんだ手がきゅうとまるまった。


「いいよ、続けて」

不安定になった聖の左手、とめられないから私はただただ舌と顎だけを動かして。頬を掃くくすりゆびひとさしゆび、もごもごと口を動かす私をつつく。内と外で挟まれて。ゆらゆらと動く右手の方に気を取られると端どうしから爪を立てられる。一瞬呼吸のとまった私を笑う。


「…っは………ふくっ……」

抜かれたと思ったらひとさしゆびとなかゆびがくっついて。いっぱいになった口の中、服の上から描かれ続けた模様は私をゆるやかにおしあげていく。布越しにさえ触れてもらえない部分がしだいに聖を欲しがりだしてうずく。


「ん……んんっ…」

背中へと伝っていったしなやかな指先。5つきれいに立てられ、つつ、と、不埒に奔放に曲線を。からかうようにわき腹、身を捩るとちいさな渦がいくつもいくつも。よわいって、しっているはずなのに、とまった舌の上で続きをうながす指。ぬるりと滑り、それから歯列をなぞりだす。全部のみこむことができなくなる。


「ふぁ……」

きれいな糸をひいた2本を、聖はみせつけるように舐めあげる。こんなにおいしいのに、とじっくりと、そんなこと知っているのに。くすぐったい気持ちいい焦れったいあれが欲しい。余裕のない私が身をくねらせるのにさえ合わせた動きにじわりじわりと限界がくる。


「………んくっ」

口の方で追いかけた私、膝立ちになったところで聖がもう一度いれてくれる。ちゅうっと吸いつくと、聖の味が広がる。夢中でくわえこむ。


「蓉子、かわいい」

あなたにだけ見せる私。よろこばれてあつくなる頭と身体の芯。気づいたのか聖はもうひとつ極上の笑顔。
垂れて流れてしまいそうなのが勿体無くて、ちゅ、とこたえるようにあなたを吸い上げた。







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通い路



「せぃ、い、や……」

あなたが見えない。あなたにさわれない。何をされるかわからない不安と期待より喪失感の恐怖がおおきい。


「いや、い、ゃ――ぁあ………っ!」

つっと背中をなぞりあげられ、反ったその上を舌が続いた。ぴったりとかぶさるようにくっついた聖は私のうなじに勢いよく息を吹きかける。


「ひゃんっ……!」

びくりと跳ねた私をついばんでいく聖。湿り髪の張りついた場所は冷気に震え、そうでないところはざわめいて地肌をくすぐった。奇襲された襟足は無防備に聖に踊らされる。かり、と肩甲骨に歯を立てられ力なく落ちていた手がシーツをつかもうとする。


「やだ、や、あぁ……」

あなただけ。あなたばかり。私を見て、私にさわって。なめて含んで、あじわって。私は声とにおいだけで、雰囲気だけで、あなたがあなただと思うしかないのに。身体の前面が接触するシーツに縋ることしか許してもらえない。
あふれでる涙をたまらず擦りつけようとした私を聖は強引にひきはがす。


「はっ、はあっ、…あ……」

つかまれた腰にくいこんだ爪が私をこちら側にひき戻した。そのままおしつけられた先には聖の服、離すまいとしがみついてくっついて。濃くなるにおいを思いきり吸い込んで。


「聖……せい………」

いきなり身を起こされ頭がぼうっとしている。だけどさっきよりずっと安心する。しだいに落ち着く私を聖はゆっくりと撫でつづける。


「……ごめんね、蓉子」

どうしたの?
うまく伝えられる自信がなかったから私はただ聖にもっと密着した。顔をあげて見る聖の表情があたたかくて胸がしめつけられる。


「ん……」

ふるふると首を振った私に聖はやさしい口づけ。この体勢じゃなければできない口づけ。
吸い上げられる舌がまけじと聖に絡みつく。求めて自分から聖の口内に飛び込む。


「ふっ……は、ぁ………」

もう一度そっと横たえられ私は聖をじっと見つめた。返る目つきは蕩けていて私を誘う。そんなあなたを私が誘う。
聖が私をむさぼり始める。喘ぎながら悶えながら聖の首に回した腕が、あたたかかった。









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着衣指先祇園祭。もとい擬音祭。
いつの間にか三部作になってました。














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