しあわせ分譲中(聖+祐巳/聖蓉+祐瞳)
「紅茶がいいです!」
「えー珈琲でしょー」
ふたつ並んだ喫茶店の前であっちとこっち。はっきりと住み分けが出来てるから共存できてるのか、もう結構な老舗の前で主張し合う女の子がふたり。
「私は瞳子の姉ですから!」
「……何それ?」
「瞳子は紅茶派で、乃梨子ちゃんが珈琲党なんです。
だから珈琲が飲みたければ志摩子さんとデートしてください」
澄ました顔でむちゃくちゃな理論。昔はよくやりこめられたっけなあ、と仕返しなつもりでもないけど一回聖さまにもやってみたかった。
……うーんでも聖さまと志摩子さんと都会の街並みなんて、なんか想像つかないなあ。
聖さまの家(想像では近代的で洋風な一軒家)で志摩子さんがドリップコーヒーをセットする姿ならぼんやりと思い浮かべられた。インスタントはちょっとな、とコーヒー豆を煎るところを頑張って考えてみたら頭の中の志摩子さんはいつの間にか銀杏を炒っていた。
「……志摩子と行ったら甘味処とかになりそうなんだけど。
てかこれ、デートだったの?」
「ふたりっきりでお出かけですもの」
軟派な聖さまに合わせた言葉遣いにしているんです。
正直、聖さまとこうやってじゃれてるのはかなり楽しい。幸せとか、泣きたいくらい嬉しいとか、そんなんじゃないけど。祐麒とゲームしてる時とか、由乃さんとどつきあってる時とかの楽しさに似てるかもしれない。
「そーか嬉しいなー。
でも祥子たち後で怒るんじゃない?」
軽いノリでいとも自然と肩に手が回ってくるのが凄いというか、流石聖さまだ。身長差のせいで聖さまの体重がかかって実は結構重たい。肩甲骨の辺りにあたる胸には実はちょっと腹が立つ。
「もう事前に言ってありますから」
「え?」
「瞳子には拗ねられましたけど、ふて腐れた顔がすごく可愛かったからむしろラッキーでした」
先代の薔薇さまなんてすごい、瞳子も行きたいですう、なんて出会った頃の声音でおどけられるのにもだいぶ笑って、ちゃんと和やかな結末にできた。連れてきたいな、って私も思ったけどやっぱりご家庭の用事は優先させて然るべきだから。
膨れかけてすぐに普通になろうとした頬をつついてごめんねって謝って、お土産話をいっぱい聞かせてあげるって約束した。
「……ごちそうさま」
「どういたしまして。」
普通はこうやって惚けるんですよ、と心中で胸を張る。志摩子さんとの姉妹のありかたについては、おぼろげに分かっては来たけど、それでもやっぱり納得はできない。精々今更羨ましがって悔しがれば良い。
「今度はダブルデートします?」
満面の笑みで提案すると腕の感触が一瞬硬直した。
あはは、と声をあげて笑うとぐにりと頬がつねられる。蓉子さまにも会いたいです、がよーこはまにもあいはいれふ、とかになったけどちゃんと伝わったみたいで聖さまの白い肌にほんのりと朱が入る。
頬をつままれたままひっぱられて、なんと聖さまはそのまま歩き出した。ずるずると引きずられてるって感じ。往来でなんだかなー、とは思うもののなんかもうこういう人目には慣れてきてる自分。うーん私は普通の小庶民代表のはずなんだけど。
「ま、ケーキの一個くらい奢ってあげるから、今回は譲ってちょうだいな」
からんと音を鳴らして入るのは珈琲がおいしい方のお店。指がようやく離されて、さすってる間に奥にずんずんと進む聖さまの行動は照れ隠しととって多分間違いない。付いてってないのに振り返らないとことか、エスコートしないところとか。パターン似てるよなーなんてまた花が咲き始めたところで切り上げて私は窓際で隅っこの席に向かう。
「ココアとチョコレートケーキが良いです」
うわ、という顔をする聖さまに甘々ですから、ともう一度にっこりと笑いながら。
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