……だってあちら側を向いた蓉子の背中はきれいな流線だったのだ。
息を整えようとがんばってる最中だから定期的にも不定期的にも揺れ動いて、とてもうつくしくて。
だんだん収束して、くるりと丸まりかけたところで、声をかけようか悪戯しようか、むくむくと顔をもたげる構って欲。こんなこと考えたのがなんだか気恥ずかしかったってのもある。
悩んで、手だとなんだかもったいなくて、でも視線ははずせなくて。
ふう、と息をついたところで思い切って目を閉じて本能に任せる。
結果的に顎を乗せてみたことになった。
あがる小さな悲鳴。
ちょっと予想外で新鮮、抗議しようと振り向いた彼女を両腕で抱きしめる。

「うぐっ」

……愛しい恋人ですが、照れ隠しの暴力は重いです。
特別、を嬉しがってにやにやするのは後日の話。された

「いきなりなによ」

「それはこっちの……いやなんでもない」

おなかに当たる冷っこい感触に、誘発される冷や汗。実は脂汗にだいぶ近い。
何も漏らさなかった私を褒めてほしいくらいだ。声じゃなくてね。もっと物理的なね。
武装解除の意味もこめて蓉子のその手を包み込む。……までに指先で背中をたどれば再び息を詰める蓉子。じっとり睨まれたけどこれは照れ隠しだから怖くない。かわいい彼女の冷たい手にそのまま頬ずりをする。
満足してないわけじゃなくて、でも戯れたい気分で。性的な意味はあってもなくてもいいんだけど、蓉子の方がずいぶんと乗り気になってるようで。口に出したら怒られるけど。火照りそのものはまだ冷めてない、戻りきれてない。そんなぼんやりした態度。
でも身体の端っこはこんなにもすぐ冷えちゃうんだよなあ。はぁっと息を吹きかけてあげるとぞくりと震える。足を絡めて、やっぱり冷たい。つま先どうしで恋人つなぎ、ばかなことやってるともぞもぞしだす蓉子。肩口に顔が寄せられて、その熱に私は吃驚した。

「顔まっか」

「……」

「…っ!」

ばか、か、うるさい、が来ると思ってた私は思い切り油断していた。
ひりひりするしじんじんする。はっ、と蓉子が慌てた風に顔をあげ、噛み跡を空いてた左手で恐る恐るなぞる。くしゃりとゆがむ顔。
……ああ、それは苦手なんだよ。

「ごめんなさい、」

「やめて」

たいしたことないから、と告げはせずに唇を奪う。
この返答だけじゃまだ蓉子の中は罪悪感でいっぱいだろう。ほら、跡に触れたままの手は微かに震えてる。今度は快感からじゃない。快感からだったらいいのに。

「でもどーせならキスマークが欲しかったなぁ」

指を這わせたついでにぬぐったのだろう、濡れた感触はない肩口をぽんぽんとたたく。痛いけど痛くないっていうか、実はちょっとうれしい。蓉子、私の背中に爪立てるのも嫌うから。マニキュア映えする綺麗な爪なのに、いつも短く切りそろえてるのを知ってる。私はほら立場上しっかり深爪だけどさ。伸ばしたらどっかひっかけそうだし。ねだったら蓉子が切ってくれるし。
そもそも爪が背中に立てられるような体位ではあんまりやらないかもなあ。ぼんやり回顧してたら蓉子のにおいにふわりと包まれる。……目を開けたままのキスは、たぶん10分ぶりくらい。
蓉子からのキスは、結構久しぶり。最近の私は甘え症だったから。いやになるってくらい私からしてた。蓉子がくれない分なんて気にしなくても済むように。

「……もう、」

今度続いたのは、ばか、だった。
くだってちゅうと吸い付いた先は、さっきの肌。歯形と重なってついたうっ血に向かって、満足? と呟く恋人の頬はまた赤くなってる。
さて、どうしてあげようか。

「よーこ?」

疑問符に支配権を乗せる。びくり、と反応してしまったら、もう誤魔化すことはできない。











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