ラフスケッチ 4



邪魔はしない、と約束したけれど根を詰めすぎている人に休憩を促すのはそれには当たらないだろう。
大きめのノートパソコンを抱え込むように半ば一体化して、蓉子はさっきから身じろぎひとつしない。資料はまとめ終えたはずで、ちらちら観察してる分には本文もほぼ書き終えていて、あとは詰めの段階でどこか粗を見つけた、というところか。
あと少し、だと思うと気張ってしまうのはわかるけれど、はたから見ればどう見ても煮詰まっている。眉間に皺を寄せている蓉子をこのまま見つめ続けていてもどちらにも益がないので、パソコンと一緒に熱を発しているような錯覚さえ感じさせる首元に手に持ったそれを押し付けた。


「きゃあっ!」

「んー、良い反応」

「ちょ……っと、江利子!」


勢いよく振り向いた蓉子に押し付けるように差し出すカップアイス。
腰をひねるように逃げたせいで盛大にバランスを崩して、慌てすぎた表情のままそれでも咄嗟に手を出してくる蓉子は優しいというか馬鹿正直というか。最初の飛び跳ねたような反応からここまでパソコン周辺に被害はなかったからこっそり一安心して、にやりと笑ってみせる。


「休憩」

「……わかったわよ」


時計に目をやって、そのまま気まずげにこちらに視線を戻す蓉子が可愛いから私はにやけっぱなし。羞恥に義務感が勝っているうちに、と小さなスプーンも手渡す。
今度はおとなしく、平穏に受け取り作業は完了して、蓉子はパソコンから分離してソファに腰を下ろす。
追いかけて隣に座ったときには、恥ずかしさを持て余した蓉子は不貞腐れたようにこちらを睨んでいた。


「……溶けかけてる」


恨みがましい視線すらたまらなく可愛らしいと、そう素直に告げれば更に破壊力を増してこちらの我慢が効かなくなった挙句後で蓉子に文句を言われることはわかってたから、髪を撫で回すにとどめておく。
びくりと反応するのにも煽られはしたけど、なんとか理性の勝利。


「もう一回固めたら?」

「……ジャリジャリになるじゃない、嫌よ」

「あら、蓉子もやってみたことあるんだ?」

「何よ、悪い?」


照れ隠しが変な方向に作用したらしく、拗ねた口ぶり。
ああやっぱり可愛い、休憩時間に収まる範疇で全力で食べてしまおうか――
「ジャリジャリの」アイスは私もあまり好きじゃないから、という言い訳をひねり出す理性を再び総動員して、蓉子の隣で同じようにゆるんだそれをひとくち救う。
期間限定品は変な味でおまけにばかみたいに甘かった。











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このシリーズ、いい加減単品枠に足る長さになってきましたが今更過去作整理し直すのが面倒で……。
このふたりはお互いばかみたいに甘ければいい。











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