いつかぜんぶもっていかれる









つきあう、なんて縁遠い言葉だと思っていた。ドラマや小説の中の世界の話。私なんかと、そう思ったけれど口に出したら承諾だと思われそうで嫌だった。私は、この人とはつきあえない。



結論ははっきりしているのに理由を求められると困ってしまった。好きな人、なんて考えたこともない。だけど目の前の人では駄目なのだ。我ながら理論のない。蓉子らしくない、と仲の良い友人なら笑うのだろうか。そう、例えば、聖なら。



いつかふらりと現れた聖は、随分と傷ついていた。私の愚行を笑い飛ばすなんてできそうもなかったから、恋愛談にもならない大学の出来事を話すのはやめた。泊まってもいい? と尋ねてくる、弱さをそのままにして私に縋る聖には。何をしてあげられるのか咄嗟には思いつかなかったからせめて。



……あなたの止まり木になれるなら、それでいい。



ここだけは、いつでもあなたのために開けておいてあげる。空けて、おいてあげる、場所はあなたがいないと冷たさが刺して痛いけれど。もし聖を受け入れられない事態になったら、
……なったら。

耐えることができないのは、私の方だろう。



だからこの欠落は仕方がないのだ。聖しか埋められないのにずっと引き留めてはおけない。膿んだ肉の裂け目が疼く感触。聖が居るときだけは麻痺した気になる、いなくなればもっと深く抉られている。誰にも見せない最奥の心。



……蓉子の家、安心する



軽口の消えた聖は一回り小さく見える。それなのに存在感がこんなにも私を埋め尽くす。あなたのための空間以外にも侵食する。



恋人のための場所、なんてどこにあるのだろう。私には分からない。ぽっかりと空いた穴を抱えこんで、広がるそれに振り回されながら暮らす私には。あの人が好きだと言った私は、きっとこの空洞を持っていない。

代わりにあったはずの他の何かを、多分、求められていた。



弱々しく伸ばされた手はいとも容易く私を抉った。また少し軽くなる私、ずっしりと伝わる聖の存在。続くのは軽口か小言か、あるいは無言。早く立ち直ってくれるように、部屋も身体も休息も体温も提供する。分け与える。



元気になれば行ってしまうと知っている、聖が埋めきれなかった空洞がずきずきと疼く。誰なら何なら埋められるのか、考えないようにして、私はしっかりと聖を抱き直す。



もうどこまでが聖のためにあるのか、分からなくなりながら。



























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