二匹の午後










「……つまらないわね」


ベッドに怠惰に寝そべって、ぼんやりとこちらを眺めたまま江利子は私にそう告げる。気だるげ選手権でもあればぶっちぎりで優勝して絵画になってどこかの応接間にでも飾られるに違いない。私の家には要らないけど。


「まあねえ」


適当に相槌。悪いけど私は今足の爪を切ってて動けない。
しかし恋人と過ごしている昼下がりにつまらないとは一体如何なものか。


「外行ってくれば?」


まあ内容によってはちゃんと付き合ってあげるしさ。
たまにやりだすとんでもないことにはできれば巻き込まれたくはないがそれで江利子の退屈が解消されるなら多少の犠牲には目を瞑ろうとも。
できれば私以外の犠牲であれば良いと願うのは恋人云々以前にきっと人間として正しい判断。


「それも面倒ねえ」


……歩くのすら、ですかい。
そ れってもうやれることの選択肢を相当潰してるんじゃ、と呆れて見つめる。可愛らしく見つめ返してなんて勿論くれない(されても困るしむしろ引くが)江利子 は相変わらずどっかファンタジーな世界を漂ってて。夢物語の中にいるならそれで良いじゃん、とお手上げのためいき。え、私がいなさげなことに文句なんてつ けてませんよ?


「ふてくされちゃって」

「……江利子には言われたくない」


暇だ暇だと態度で示す彼女の機嫌はだけれど別に悪くない。構ってオーラだったらちょっとは可愛げがあるのに、素っ気ないところがいかにも江利子だ。まるで私が甘えたがってるみたいじゃない。あーあなんだかな、と最後のひとつを切り終えて丸まってた身体を伸ばす。


「なんとかしなさいよ」

「……じゃあ、さ」


丸めたティッシュをダストシュートし、立ち上がった勢いのままで江利子に近づく。命令形が似合う不遜な顔に影ができ、更に私しかうつらなくなるくらい、近く。


「それ、もう飽きたわ」


……情緒の無さも天下一品。


「……江利子ってさあ、本当、」


このやろ、と小突くといかにも嫌そうに眉を潜められた。それ以上やったら殴るわよ、って、理不尽極まりない台詞。どうすりゃ良いのよ、と思わず正解を求めたくなる。神様マリア様なんてごめんだから、蓉子や志摩子あたりに。


「……まあ、いいわ」


昼寝にしましょうか。
それはふて寝って言うんじゃないの? ってくらいやる気のない眠る体勢で江利子は私のベッドに乗っている。脇でしばらく突っ立っているともう一度眉が寄ってそれからぽんぽんとシーツが叩かれた。江利子の隣、ちょうどぎりぎりひとり分くらい空けられた空間。


「……」


セックスは駄目で添い寝なら良い、その価値基準がいまいち分からないまま私は江利子をまたいで越して腰を下ろして。隣に潜り込むとこっちを向かれる、柔らかい髪がすれすれに落ちる。


「……おやすみ」


す、と音もなく詰め寄られ眼前に江利子のどアップがうつったと思ったら唇に微かな感触。すぐに呆気なく離れ、それから目を閉じた江利子はどうやら本当に眠ってしまうらしい。ぱ、と指で押さえた箇所が熱くて、私は恨みがましく目の前の恋人を見る。


「……ったく」


おやすみなんて、返してやらない。
しばらくは、こいつの寝顔を独占して見続けてやろうと思った。








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