うき











「また雨なの?」

「ご名答」


いかにも鬱陶しげな言葉遣いは、わかりやすく膨れているこどもみたいで可愛く……ないこともない気がする。頑張れば。
やってるのがてるてる坊主を作ったら嬉々として首をふん縛りそうな悪女だったとしても、付き合いと色眼鏡と気力とその他諸々を駆使すれば、なんとか。


「この間聖が来たときも降ったわね。
 あなた雨女なんじゃないの?」

「晴れ女として有名な私にそんなまさか。
 中等部も高等部も、行事は大抵晴れたじゃないですか」

「あれは私のおかげよ」

「…さいですか」


あえて訂正するなら雨だったのはその前の時だが、江利子のその台詞自体には正直思うところがないわけでもない。あんまり思い出したくない記憶ばかりだけど。
つまり私が不幸になるときは大抵天候が崩れるのだ。ということは、今の状況は。


「江利子って疫病神?」

「なんでそうなるのよ」


思ったことをそのまま口にすれば胡乱を通り越し不審者を見る目がかえってくる。そりゃそうか。いや私は断じて不審者なんかじゃないが。


「……説明するのはめんどいかな」

「言い捨てするつもり?」


自他共に認める作り笑いに取って変わった瞳は、輝いてはいるが如何せんその方向性がロクでもない。牧歌的な気休めを提唱する前に私の方が先に首を絞められそうだ。
まあこれくらいで冷や汗が伝うなんてことはない。良くも悪くも付き合いは長い。幸不幸の不毛な快楽計算をするなら前者をほんの少しばかり勝たせてやるのさえ吝かではない。極めて微量ではあるが。


「うお!?」


素手を飛ばしてステッキ状のプラスチックが飛んできた。なんだそれ。ぱっと見る限り編み棒かなんかか。木の方が使いやすいんじゃないの?


「教えなさい」


舌打ちの次に飛んできたご命令に、素直に応じてやるのは正直癪だ。これでうまくいけば彼女の機嫌が、などという安易な楽観にはあまり意味がないことも既に過去のあれこれから身にしみてしまっている。直球のままじゃむしろ悪化しそうだしな。
しかし本当に女王さまがお似合いなことで、と私には良くわからないドレスっぽいワンピースに身を包んでべたりとベッドに腰をかける江利子に編み棒(推定)を投げ返す。あとは継母とか姑とか。どっちも同じか。

さてどうしますかね、と手近にあったティッシュボックスを引き寄せる。てるてる坊主のためにいきなりたくさん引っ張り出したら、気を逸らしちゃくれないかな、とかね。


「聖」


……やっぱ無理かな。








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