幸せはあなたに











笑うには苦く、泣くには甘い。中途半端な感情に態度。嫌われている訳じゃないけれど好かれている訳でも無論、無い。私の存在は認めてくれている、多分他人より優しくもされている。それでも愛して欲しいと足掻く手は私の方に伸ばされなどしない。無遠慮な私を掠める爪先は警告、威嚇。そこからは入って来ないで。ここにいられるのを喜べと言うのか。いや事実私は喜んでいるのだ。ただ、同じくらい、悔しいだけ。
いつまでもここから、あなたが他の人を受け入れるのを見ているのは。


私のことを見向きもせずに、聖に向き合った人もいた。戸惑うようにこちらを窺いながら彼女に飛び込んで行った子もいたし、感謝してくれた子もいる。白薔薇さまは、少し申し訳なさそうに謝って、それから私にバトンを託すかのように去っていった。
空いた隙間は、すぐにあの子が埋めた。


ざくざくと周りを掘っているのだ。彼女たちがもっと一緒にいられるように。私と離れていられるように。
或いは、落ちた私を見てもらえるように?


噛みしめた唇から滴り落ちる血は薔薇のように紅い。吸い込まれて薔薇よりどす黒く、聖との間を染めていく。こんなもの彼女までは届かない。温室の薔薇、それよりもっと息苦しい熱。中からほてる、暴れだす欲。ほどける花びらが辺りをぐしゃぐしゃにして、めまいがして、

でも、それを気づかせない程度には私たちは遠い。不審がられても、平気よ、と強く言えば引き下がる。……泣きついたってきっと、困らせてしまうだけ。


笑うには苦く、泣くには甘い。笑いながら泣けたら、幸せだろうか。幸せだったら、笑いながら泣けるのだろうか。

きゅ、と口を引き結ぶ。されもしない口づけを拒絶する、流れ出るものをせき止める、あなたとあの子とをここから見ていられる、強さ。
好きでない長所を彼女も嫌っていてくれたことに、安堵、しながら。









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どうすればいいっていうのよ。


真っ直ぐな視線なんか向けられない。私は大概がねじ曲がっていて、ひねくれた理性が支配している。それに私より真摯な直線で返されたら、もうどうしようもないではないか。私は歪んでいるけれど、彼女への想いだけは真っ直ぐなつもりなのに。あの目つきで、態度で拒絶されたら私はもう立ち直れない。再起不能だ。

いつの間にか傍にいた。鬱陶しくて、煩わしくて。離れようとしても距離は変わらなかった。自分でも分かる酷いあしらいにまで蓉子は逃げなかった。じっと立っていた。

いつの間にか傍にいてくれた。悔しくて、腹立たしくて。近づこうとしても距離は変わらなかった。作った覚えのない隔たりが出来ていた。蓉子は寂しげなのに、存在感ばかりが大きかった。

深い、深い穴。手を伸ばしてもきっと届かない。一度やったら、無様でも精一杯頑張ってしまうだろう。失敗して落ちたら、蓉子は助けてくれる? 多分、助けてくれる。でも。その後は?

蓉子の感触を知らなければ、まだここにいられる。こっそりと盗み見る蓉子の唇の紅さに憧憬を抱いていられるうちは、まだ、彼女の前で平常を装おえる。

他の子との道は地続きだ。手を差し出せば簡単に転がりこんでくれる、無防備な子たち。世界は意外に優しいし、案外易しい。心はなくても人肌は味わえる。まっすぐな髪、少し小さい手、すらりと伸びた脚。どこか彼女の影を探して、性格だけは絶対に似通わせない。別れる理由ならいくらでも言える。付き合う理由はひとつしかない柔らかい子たち。

心の芯は凍らせたまま、外身ばかりをあたためて。見ているだけでいい。あの凛と咲き誇る紅薔薇を。

触ってもけして手折られずに小さな棘だけを残す、こんな世界よりずっとずっと厳しいあなたを。










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江利子も足す……予定。



















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