過不足の問題
今日の染谷はおかしかった。
あたしの部屋で壁にぶつかった。
(光で白い迷彩になるベッドとの境、ちょうど柱があって危ないところ。)
まずそもそも入室のときの挨拶がなかった。
(順、って声すら、かからなかった。)
カラダかココロか知らないけど、不調を隠そうとして、失敗してんのが、手にとるよーにわかった。
…そめやぁ、
……なに。
あたしのベッドで女の子座り、ケータイなんか、気もそぞろなくせにながめちゃって。
その画面に写ってんのは明日の天気予報? くっだんないニュース?
あ、上条さんとのメールだったりしたらちょっと妬けるなー、なんて、
抱きしめていー?
…なんでよ
あたしがそーしたいから、
そこでうっと言葉に詰まってしまう、可愛い女の子はあたしの恋人なのです。
困っちゃうことに。突然訪問されて、気の利いたもてなし、何もできなくて、あせりっぱなしの心ん中が彼女への心配で押しつぶされそうで、それでも必死で見栄張って、踏ん張っちゃうくらいには。
っ!
ぎゅっと抱きよせた染谷はちいさかった。
態度ひとつ、気分の一個二個で、こんなに変わるんだ、とびっくりするくらい。
うちの姫よりはほんの少し高温、それでも随分とつめたい、
(はやてちゃんとは段違い。冬場の冷え性は毎年友人のぼやきとしてしか聞いてなかったから、今年は、恋人としていっぱいあっためてあげるんだ。)
……ああ、染谷の体温と、肌の弾力、やっぱり好きだなあ……って、
やましい気持ち、…は、そりゃいつもあるけど、彼女がいきなりはっとしたようにあばれ出すからきょとり。
……やなの?
ちがうわよ!
染谷が触っちゃったせいで明るくなった画面、もちろん忍者の視覚野が見逃すわけがありません。
……なんでツーショット?
夕歩がみたかったからよ?
……そーなん?
まー、ひめ、かわいいからねえ。
いやし効果満載。われらがオアシス。
……うそよ
………あ、うん。
ツーショットしかもってないもの
……うそだあ
そこで染谷が、はっきりと、傷ついた顔をしたから。
……ああ、今日の染谷はずっとおかしくて、とびきり心配で、……どうしよう、すごくかわいい。
じゃああとでどんなんでも撮らしたげる
…いらないわよ
やだ。あげる。
そんでその前に
わかりきった最後を飲み込んだのは、染谷の口。
かみつくようなキスを受けたのはあたしで、押し倒されかけたところでついた手がちょうど染谷のケータイにぶつかって、だけど染谷は、自分の持ち物よりもあたしのことを先に心配した。
(いつも、こーゆーバカやったときにきっつい皮肉をくれる染谷に、ホントに心配されてないなんて思ってないけど。
照れ隠しが全くないなんて、すんごい珍しい。)
いっぱいぎゅーってして、わやくちゃになって、あたしの布団、ヤってもないのにぐっちゃぐちゃになって、染谷はちょっとずつあったかくなって、
(小さい頃、夕歩とキャンプごっこしたときよりひどかったな、って、あとで思った。)
……やっぱり写真はしばらく要らないわ、と、つぶやいた彼女に対して、今度は間違えなかったし、困ったりもしないでもひとつおまけにぎゅうとやった。
しつこい! って、ついに飛んだ照れ隠しが嬉しくて、ちゅーしようとしたのは逃げられた。残念。
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8周年ありがとうございます。
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