権利の請願(槙ゆか)




「もう、遠慮しなくて良いのよね?」

「……はい」

「ありがとう」


嬉しいと、好きと、愛してる、と。
続く言葉はだんだん涙声になっていって、だけれど私は止めることも宥めることもできなくて。
ただ、この瞬間の先輩を、私たちを覚えていたかったから、精一杯真っ直ぐに、見つめていた。震える足に瞼に力をこめて、相対していた。

……その時にはまさか、先輩のいう遠慮、の程度をこれほどまでに身をもって思い知らされることになるとは思わなかったのだ。



「ぅ……、……ゃ、…も!」

「ん、」

「い……っ」

「いたい?」

「…いえ、
 …………っ!!」

「そう、」

「っ……! ぁ……!」


先が見通せない苦しさを抱えたまま、未知だった限界さえが容易く突破されていく。
加減を知らない熱量で、暴力的に降らされる愛情。
気遣いは忘れないのに、聞き入れてはくれない、果ての無い断続。
情の形は欲望で、混ざる本能は深すぎる色を飲み、
悲鳴に溶ける満足までが、その何倍もの快楽として返される。
熱くて苦しくて、声も呼吸も貪られ、奪われた先に。
もう何がなんだかわからなくて、わたしという範囲すら先輩に委ね明け渡した私に。
落とされたつぶやきは、愛の言葉からかけ離れていたからこその本音で、真心で、鮮烈な告白だった。









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大切にするよ(夕順)




「ひ、……っぅ!」

「…いーこえ、」


ビックリした順が私を見る表情が、私に未知と恐怖さえ感じているその断絶が、
私たちの安定を軋ませる赤と白の斑模様が。
いつの間にかたまらなく心地良くなってしまっている。
危ないなあ、なんて思ってみながら、でももうとっくに手遅れなんだろうなあ、とも理解している。
だってこの快楽には、反復性がない。
どんどんひどくなって、エスカレートして、たぶん順が耐え切れなくなって。
そうして、ぷっつりと、終わってしまうのだ。
ボロボロになって、なんにもなくなって、私がどうしようもない悪者になってしまったときに。
順がどんな表情で私を見るのか、私を受け入れるのか(あるいは、拒絶するのか)、
考えるだけでゾクゾクする。


「……まだ、全然だね」


ビクリと震えた、まだ頼もしい順、被虐に染まる肌、揺れながらもぬるんでいく瞳、
――そんな、期待したカオ、しちゃって。
いいの? 私をそんなに、煽っちゃって。







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舞い上がればいつか(氷祈→ナン紗枝)




「……相変わらずですね」

「そう。」

「隣、いいですか?」

「お断りよ」


お互いに、相手の承諾も拒絶も聞きやしないのだとわかっているから、遠慮なくベンチに腰掛ける。
一緒に座ってる、とはギリギリ言えないだろう隙間を空けて。この人の手元を覗きこめるくらいには近く。

つまらなさそうに頁を繰る様子から、無関心の度合いを推し量れた(と思っていた)時期はもう喪われて長く、お互いに、どうにも手が届かないほど置き去りにしてしまった。

この人を、貪りたくてたまらなかった頃もあった。

今はもう誰にも向けられない、熱情。寝ても覚めても貴女のことばかりを考え、夢見ていた、自分の純情を蔑んでいた、なつかしい記憶。
細く長い指先は魔法の手だったし、その冷酷を崇拝し、他者を拒む壁までを誇らしくさえ、思っていた。
私をみつけて、わざとらしく深いためいきをつく、あのイヤそうな顔。
たったひとつの年齢差が絶対的なものであった年代に、あの人が見せる特別は、
私にとってバカみたいに幸せの象徴だったのだ。

呼び覚まされるときの疼痛がようやく遠くなってくれたことが、とても嬉しくて、少しだけ寂しい。


「“今日は、日本語の本なんですね”」


だからたまには、こうやって、私からタブーを犯してしまっても、良いでしょう?
ほんの少しでも、反応してくれていたら。きっととても嬉しくて、少しだけ気まずいのだろうな。


「陽向で読書していると、目、傷めますよ」

「大きなお世話よ」


だから彼女の方は見ないまま、あのときのようには本の題名も内容も確認しないままでサヨナラを告げる。

“その期待は裏切られたのだ”

強調されていた文の一部、柊ちゃん流の英語に直したらどうなるのかしら、なんて。
曲解も焦燥も無い幸福を噛み締めるために、紙上の眩さで眩んだ目を、少しだけ閉じて、笑った。







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孤独と呼ぶには暖かな(順ゆか)




何をいっても拒絶するくせ、最後には全部受け入れてくれる。
彼女の天邪鬼は不器用で、強がるから余計快楽に弱く、冷たい態度はどこまでも優しい。
罵声が心地良いのは、あたしの性癖のせいだけではないと、声を大にして言いたい。
実行すれば蔑む眼。背を走る悪寒が即効で快楽になるくらいには、そしてそれを即座に染谷に分け与えさえできるくらいには、あたしたちは今不健全に青春を黒く塗りつぶしている最中で。


「っ……、っ、…ふ、」

「はっ、……は、…」


あたしの息の方がずっと、荒い。
少しだけ悔しくて、だけれどキスは拒まれたから、気まぐれに下から這わせてた手をそのままスカートの中にもぐらせる。


「……ちょっと、」


こういうの、嫌がるって知ってるから。
だからわざとらしく、いやらしくしてみせて、腿と布地の狭間、めくるでも脱がすでもなくすべらせて、悪戯のようになぞる。


「……やめて、」


見える場所だから。
唇をつけた途端とばされる拒絶に、あたしの名が呼ばれるのは、まだあまりその気にはなりきっていない、夕刻だから。
ふふ、と小さく笑えば、わずかにこわばる身体。
舐めるためにわざと露出させた舌、スパッツの端まで行き着いて。
今まで辿ってきたところにまとめて息を吹きかけると、今度ははっきり、ぴくりと震えた。
少しだけ塩辛いこの弾力に、もし本当に吸いついたり、噛みついたりしても。
怒って、文句を言って、さんざん罵った挙句に平手の一発くらいはくれて。
彼女はそうしてあたしをゆるしてしまって、現実的になんとか対処してしまうのだろう。
許さないから、と告げるその口と、目と、態度さえを裏腹にして。







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パターンB祭。
タイトルは御題よりお借りしました。











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