わらって、わらって、泣いて、 (槙ゆか)




欲しかったものがある。
それは輝かしい未来で、漠然とした幸せで、
私の隣にあなたがいることで、あなたの隣にわたしがいないこと。

ゆめをみているだけでよかった。いつか手放すぬくもりだと知っていた。
暖かいということは、熱くもなく、冷たくもないということ。
(燃え上がれるほど、嫌われるほど強く想われては。いないのだということ。)

欲しかったものがある。
それはかなわない恋情で、彼女の不幸せで、
私に笑いかけてくれるゆかり、彼女が私なしで笑える未来、
そのどちらをも引き換えにして得られるゆめ、熱く冷たい、あなたの激情。









--------------------------------------------------------------------------------------





きみをすきになってよかった。 (順ゆか)




彼女でなきゃいけない理由なんてなかった。
必然性がなかったから、彼女で、良かったと思う。

つぶやいたら、腕の中の彼女はためいき、あきれ顔。
つむじに顎のせて、からまってる手の先も見えないのに伝わる感情、表情、まとめて、愛情。
ピロートークには重たいような、だけれど口にしたら途端、薄ぺらくなってしまったような。
甘いだけが愛じゃない、苦いばかりが恋じゃない。
ダメっていわれてゆるされて、好きと言われて突き放される。

「あなた、いったい何回言い訳するつもりなの?」

「――うん、」

しあわせすぎてこわいから、うれしくて泣いちゃいそうだから。
今、振り向かないで。








--------------------------------------------------------------------------------------





あいまい、あまい? (ナン紗枝)



――苦い。

「やっぱダメだった?」

「…うーん。
 好き嫌いは、あまり、無いと思うのだけれど。」

「いや、ンなコトねェだろ」

お上手に取り繕えるだけで。
呆れたように口にした柊ちゃんが、私のてからそれを取り上げ、断りも無しにあおる。
なんとも豪快に、さらされた喉元がごくりと動くのに沸いた生唾が、口に残る苦味を一瞬だけ倍増させ、押し流した。

「ゴチソーサマ」

口元ぬぐう指先に目線が移ったのに気がついてるくせに、私の反応を待ち受ける笑みは隠しもしないままの、意地の悪い恋人。
そうあって欲しいのは私なんだから、怒らない代わりに感謝も言ってあげない。

「口、ゆすいでくれなきゃキスしないから」

「ンなにヤダった?」

「悪い?」

「いーや、」

カワイ、と軽く言って、キス、「される」。
ほら、やっぱり。言わなくたってちゃんと、伝わってるんじゃない。







--------------------------------------------------------------------------------------





本能に従え(順ゆか)




あたしのためだよ

え?

あんたに笑っていて欲しい、あたしのためなの

ため、って、

わがままなの

……だから、ごめん。


か細い声と裏腹に、キツく、掴まれたままの腕。
絞られたままの、心臓。奪われたままの心。

――この、臆病。意気地なし。卑怯者!

いつもなら容易く口に出せる本心を(暴言を)、言葉で伝えられないことが。
何よりの証拠として突きつけられる、この感情を(本能を)。
踏みつけにするこの人の弱さが、大嫌いだから(だいすきだから)。


――ばか。


私は、今から。私のために嘘を吐く。






--------------------------------------------------------------------------------------

タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。
どうやらお題などで二人称が「きみ」になると途端、順ゆかが書きたくなるようです。












inserted by FC2 system