気づいたら負けのゲーム
 (順ゆか)




ああ、ひどいことをしている。
自分が同じことをされたら、同じように抵抗するくせに。
染谷が可愛くて、可愛いから苛めたくて、その気持ちもきっと共有している、感情のひとつで。
お互い、手に取るようにわかるから。やめさせられないし、とめられない。


「――! ……っ!」


罪悪感を、いっそ恍惚の心持ちで受け取ったあたしに届くのは、声にならない悲鳴。
睨まれ、噛まれ、指先に走る痛みよりもずっと強く響く、揺さぶられるからだの芯が身震いをして、そして。
はりつめたあかいろに吐息、握られて噛まれて爪を立てられて、それでもそこに触れない手が、染谷に傷つけられて染谷を傷つける。










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放物線を描く、この恋の行方を (槙ゆか)




「…だめよ」

「…っ!」


声を詰まらせる、というよりは息を呑んで、ゆかりの、泣き出しそうな眼が一瞬私に、縋るように向けられた。
ぞくぞくと立ち上る、名づけてはいけない感情が渦巻く。
私のシャツを掴む手を微かに震わせながら俯いたゆかりは、はっ、はっ、と苦しそうな呼吸。
苦しそうで、泣きそうで、つらそうで、……もっと見たい。

だって彼女の唇はまだ、欲しがることばを吐き出さない。








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アイラブユーを喩えなさい (ナン紗枝)



「や……っ」


際限無き快楽を恐れる反射に過ぎないそんな拒絶すら、口にした途端後悔を浮かべるこの女に。

――拒まねえの?

それを聞くのは終わりを告げるのと同義だと、わかっていた。

これが最後かもしれない、と何処かで思っている気配がいつもあるのが嫌いだ。
誘っても、押し倒しても、押しても引いても変わらない態度。余裕綽綽というほどではないが、怯えも焦りもしない。生理的な涙は綺麗なばかりで、ぬかるんだ 熱源はどこか余所余所しい。いくら突っ込んでも、かき回しても、鳴かせても。罪の存在を、識っていると言わんばかりの肢体。

愛してると、言えば何かが変わったのだろうか。好きの一言だけでは、足りなかったのだろうか。
あんたの言葉を、求めきれなかった臆病では、所詮。あんたには、届かなかったのだろうか。









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つまり両思いだ!(綾クロ)




「あやな、さすがにちぬ……」

「いっそ滅びろ。」


逆さにしても何も出なかった。残念。
こいつがバカなのは今に始まったことじゃないが。とばっちりを受けるのも今更だが。
それで収まりがつくなら苦労しない。

ばさばさともう一度揺さぶってやれば漏れる呻き声、息絶え絶えのこいつに晒すのは渋面しか持ち合わせがない。ああ残念だ。お前がフェジカルにしか堪(こた)えてなさそうなのは尚更残念だ。


「……うあ、」

「これに懲りたら、」


もう二度と不意討ちのキスなんかするんじゃない。
素直に返せなくなるだろうが。バカ野郎が。








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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。












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