面倒な恋ならば粉々にしてしまえ 
(槙ナン)




咲いた花を踏み潰す衝動を、枯れゆくソレへの哀愁だと取り違える、こいつが嫌いだ。
美しいものは美しい。眩しいものは眩しいのだと、知って、
それをありのままに受け入れる、受け入れることができるこいつが、あたしは。大嫌いだ。

綺麗、とキレイな手であたしの髪を梳く、
かわいいと、頭溶けた表情でヒトを抱きしめてくる、
ありがとうと。吐いた暴言を勝手に曲解しては破顔して、喜んでいる。

踏みつぶせねェなら踏みつぶされてやりたかった、凍らせてひと息に握り潰したかった花の名前を、上条は、飽きることなく、
枯れることなど考えてやいやしないという声で。











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一秒、一日、一か月、一年、増えていくのは思い出ばかり (槙ゆか)





差し出された缶コーヒーに、口をつけてはじめて爪にまで染み込んだ汚れに気がついた。

「あら、」

思わずそう漏らしてしまった辺り、流石に気が抜けている。
ゆかりといると、(特にふたりきりだと)とても楽に絵を描くことができるから。
一旦入り込んだら周りが見えなくなるのは結局変わらないけれど、
(ゆかりにはよく叱られる。最近は呆れられるだけになってしまったのが、少しだけ寂しい)
(……なんて言ったら、きっと、今度はすごく怒られるんだろうな)
寮に帰ってから、あるいは翌日に感じる疲労感が全然違うのだ。
タイミング良くかけられる声、差し出される飲み物。
他愛ない会話が肩の力を抜き、何気なく交わしたやりとりが状況を打開する突破口になる。
ゆかりはすごいな、と思う。

「……どうかしましたか?」

少しだけ慌てた声。どうしたの。たずねかけて、口に出す前に気づく。
吸い寄せられるように口付けて、けれど抵抗のひとつも無かったから。
ふたりきり、のおかげで今日はもう随分とはかどっているから。
そんな今日の言い訳を呟くことなく、さっきよりももっと、ずっと。強く、引き寄せた。








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いちごショートケーキにのぼろう (玲夕歩)




蜂蜜が、余ったからだ。

甘いものは、嫌いではない、らしいことは知っていた。
食堂でトレイにデザートが乗っているところはたまに見るし、紗枝だ宮本だが置いていった菓子を、食うか? と差し出せば大概はおとなしくつままれる。
数回、微妙そうな顔をされたのは、きまって辛さが売りのヤツ。勿論すぐにひっこめたし、最近じゃすすめることすらしていない。

「ホットケーキ、食うか?」

キライなものをキライとあらわしてくれるのは、とても楽だ。
だからこいつといるんだろうな。
最近の自分への言い訳は、そういうことにしている。

「既製品?」

「いや。
 今から作りにいく」

意外だ何だと言われるが(うるさい。ほっとけ)、料理や菓子作りの類は嫌いではないし、どちらかというと得意な部類に入る。もしかしたら紗枝よりも。
いや、あいつの場合はできるのにやってない可能性も高い。つーか、できないことにしときたいっつー態度も見え隠れしてる、よーな……ああもう面倒くさい。
あたしは知らん。これで良い。

「…どうしたの? 急に」

面倒な刃友に、にこやかに「はい、あげる」と手渡された、それなりに高級な瓶。
作った菓子にかけるくらいしか使い道のない代物。

「蜂蜜が、余ったんだよ」

だから。そういうことにしておく。










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「願うだけならありでしょう?」 (ナン紗枝・パロディ)





「…欲情しないの?」

「はァ?」

呆れ果てた声。
それがいつもの温度でしかないことが。嬉しくて、とても不満。

「んー、私、割と魅力的な方だと思うんだけど」

「へぇへぇそーですか。尻軽女」

「クビにするわよ?」

「火遊び好きのお嬢様は、権力行使もお好みデシタか。
 いー趣味をお持ちのコトで」

面白くなってドレスの裾を捌いて、屈む。
キス、だけのつもりだったけど触れた途端気が変わって、くわえこんで甘噛み。
は?という表情が、冷静を取り戻す前に。
思い描いていたよりずっとキレイな手を包み込んで、宝物のように扱ってみせる。

「ありがとう」

「ホメてねーし」

「知ってる」

自分の趣味が悪いことも、その中でもこれはいっとう格別であることも、
罪悪感などこれまで感じたこともなかった心がひどく、暴力的に、脈打っていることも。
この先に夢想した未来なんて無いことも。
全部知ってる。だから。良いでしょう?








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ナン紗枝は良家のお嬢様と雇われ用心棒…みたいな話が書きたかった残骸。
タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。












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