そのさいごには、   (槙ゆか)





おめでとう。

ふふ、ありがとうございます。
先輩も。

ええ。
……でも、寂しいわね。

え?

もう、こういう私は、必要ないのね。

…っ、な、…っんで、


数日前のやりとりの、やり直しだと言わんばかりの先輩の声。
こんなところで、私の両手が塞がっているのをいいことに、
さらりとキスをしてきてから。


なんで、そんなこと、いうんですか!!
…っと、

…ゆかり?

やっと!
…隣に立てるようになったと、思ったのに。


一緒に歩いてくれるんじゃ、なかったんですか。
呟いた私と対する先輩は、いつの間にか慣れ親しんだ、いつもの距離。
すっかり馴染み深くなってしまった、私の教室から部室に向かう階段、二階から三階への踊り場は今日は西日がこんなに差しているというのに、随分と肌寒い。


歩くわよ、勿論。
頼りにしてるわ。

せん、ぱいの「勿論」は、いつもおかしいです

そうかしら

そうです

…じゃあ、どうして欲しいの?


そう口にされることはいつだってわかっていて、
いつだって、そう言ってなんか、欲しくなくて、
だけれど私の手はかたい握り拳の形のまま、ぶるぶる、ふるえていて、
まして、私の望まない言葉ばかりを吐く先輩の唇を自分のそれで塞ぐなんて真似は、とても、かなうはずもなくて、
結局いつものように待ち受けてしまった、先輩のその問いかけに、私は、今日も。
私にとっても、先輩にとっても。ふさわしい答えを、返すことはできないのだ。












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あいしあった抜け殻 (順綾→綾紗枝)






わたしと順の、どこが、いけなかったのかな

そういうことを聞いちゃうところじゃない?

…あいつも同じこと、聞いたんですか

内緒。


そういって顔を寄せれば、さぁっと染まる頬が可愛い。
まだ少しだけ童顔の片鱗を残している、それでも初めて会ったときよりは随分と鋭角になった輪郭に触れれば、ぴくりと眉が跳ねるから、思わずそのまま齧りついて、食べてしまいたくなる。


さすがに守秘義務くらいはあると思わない?

…そういう生き方、いい加減改めたらどうですか

俺が忘れさせてやる! って言わないの?

なんで「俺」なんですか……

だって無道さん、そういうの、好きそう

そんなことないですよ。


吐息も鼻息も、もしかしたらまばたきで起きる風すら相手にかかるんじゃないかと思える距離で。
そんな、甘い錯覚に酔っている私に、とうとう耐えかねたのか、首を伸ばして唇を求めて。
抱き寄せてくれなかったから減点。ぷっくりした下唇に噛み付いたら眼鏡の奥の瞳が随分と大きくなった。


だって祈さんは嫌いでしょう?

そんなことないわよ


ふたりとも、そういうところがいけないのよねえ。
まあ久我さんは最近あんまり遊びに来てくれないけど。
彼女の方は、性的なちょっかいをかけると本気で逃げられるんだから、あれはあれで可愛い。
もちろんあっさりと落ちてくれたこの子も可愛い。
可愛い子と、可愛いことしてられるうちにいっぱい楽しまなきゃ、損じゃない?
なんて囁いたら、律儀に訂正しようとして、そして失敗するような子とばかり、私はこういうことを、している。












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欠けたペンの先 (氷祈)





扉を閉めるだけで、へたり。
しゃがみこむ様子に口角が上がる。

座ってしまった後ろから、手を伸ばせば、触れる前から。
背中に目がついてるわけでもないだろうに、見える範囲に鏡のひとつ、有りはしないのに。
ああ、今日は姿見の前でするのも、面白いかしら。
前回はそこで満足させてしまったせいで、最後に蹴られて少しばかり危なかったから、
そうね、距離を取るよりは途中で移動を強制させた方が、お互い、楽しめるでしょう。
触れる寸前のところでくつくつと笑ってやれば、すぐさま永続的なものになる震え。
脅えるなら、来なければ良いのに。
それとも、それ込みでの、期待なのかしら。

こちらを振り向きたくてたまらないという気配を、
どぎついくらいに醸し出しながら、目を閉じることもしないまま、
着衣をゆるめられもしないうちから、彼女は息を荒げ、乱れていく。










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名前を呼ぶことさえ億劫だ
  (氷祈・未来パロ)





は、…あ!


相変わらず細い身体が、おとがいをそらせて、声を漏らすのはどこか映画めいていた。
気持ち良いかなど勘案してはあげない。痛がってくれた方が、いっそ都合が良い。
いやなら来なければ良い。何度だって言ってあげた台詞。
最近は、気まぐれに呼んであげるなどという口実すら取り上げた。
それでも定期的に、不定期を装っているつもりだろう律儀さで私の家を訪れる。
華奢な靴を揃える余裕もなく袖を引いて誘う、瞳は捨て鉢に、昏い期待を乗せている。
小説やAVでもあるまいし、こんな風にされて、気持ち悪いくらい濡れては喘ぐこの女が、少女だった頃はまだ、憐憫のひとつも、あったと思うのだが。
日常も非日常も摩耗した先に、安ホテルでも都会の一室でもなしに、それなりのベッドが軋む音は、隣室には聞こえようもない程度の悲鳴。
ほろほろと泣き続ける女が、少女に戻りたがって女を使う、その滑稽さを貪る私も、みっともないくらいに女だった。


ひ、むろ…さん、

なあに、

……ふふ、…っ、……あはは、

随分とご機嫌ね。

えへへ、…そーですねぇ、
ん、……ぅ、

気持ち悪いわ。

ふふ、…ん、……ん……


壊れているようにも見える、いや、壊れているのだろう笑顔は、
けれどこれまで見たどの姿よりも、誰といるときの表情よりも、
しあわせそうで、硬い笑みばかりだったあの頃よりずっと少女めいていた。














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各タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。












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