重たい荷物だから持つんでしょう (槙ゆか)





厭なものなら見なければ良い。
そう言って、両目を覆ってしまうことをしなかったのは、
彼女にとってそれが、本当には、嫌いなものではなかったことを、知っていたから。


…、ん、


手の平の代わりに唇で、目蓋の代わりに唇を。
塞ぐ行為がやさしいのは、塞ぐ私のこころが、ちっとも、やさしくはないから。


あ……ぁ、
……だ、め、

どうして?


掻き合せようとする腕の隙間を縫って、服越しになぞるだけで震えるゆかりが、本当に嫌がっていたら、こんなこと、していない。できるわけがない。
顔を俯かせたまま、浅く息を吐く姿は、自分から望んで、苦しみたがっているようには、見えるけれど。


だって、…こんな、
……っ!!

いやなの?

ち、が…


質問ばかりで追い詰めていくのは、ただ、彼女に気持ちよくなって欲しいから。
私が断定してしまえば、ゆかりは、きっと、もっと簡単に身をゆだねてしまえるけれど。
でも、そうね。
ほら、ソファに座った私に跨る太腿が、まだ触れるずっと前なのに揺れているのは。


も、…これ、

うん、


ゆかりから、私の望む反応ばかりを求めようとする私への、言い訳ばかりがうまくなる。
言葉の代わりに指先で、束縛と変わりない、ぬくもりを。












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きみのわらう顔がみたくて (順ゆか)






引っ越した結果、どちらの部屋からも少しずつ遠くなってしまったのに、
お互い、変えることなど考えもしなかった、文化部棟の裏手にある大きなイチョウの樹の下がいつもの待ち合わせ場所。


……隠してきたんだ

だってあなた、気にするでしょう?


お互い、口にするとは、思ってなかったって顔で。
しばらく見つめ合って、終わらせ時を見失って。


…ん。

……ありがとう。


それでも最後には無理やりに笑った順が、一瞬目をつぶって、(何かを覚悟した顔をして、)
それから一歩近づいて、ゆるく触れた指先が、私の髪を優しく撫でる。


なんであんたがいうかなー

嬉しかったから。

…わかんないや

いいわ、それで。


納得いかない顔をして、それでも不満足を溶かすわけでもない。
順が着ているざっくりとしたサマーニットは、この間のデートで、夕歩に似合うかなあと手にとっていた彼女に、あなたも似合いそうだけど、と口を出した結果のもの。
色違いか、あるいはいっそ同じものを二枚買ってしまってもよかったのに、そうしなかった理由は、今に至ってもお互い、口に出して確認してはいない。


じゃあ、いこっか

ええ


私の方がさすがに忙しくて、ひと月ぶりのショッピングデート。
久しぶりに完全に片目の視界には、映らないのに隣の恋人は校外に出る前からもう、満面の笑みを浮かべている。











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まっすぐすぎて、わらっちゃうね (ナン紗枝)





遠くで目があったとき、ひらり、片手を挙げてみせるその姿が好き。


だから、つい、目で追っちゃうんだと思うの

へー

うん、そうよ。
だから、


柊ちゃんが悪い。
そこまで言った私を呆れ混じり、でも随分と楽しそうなかおで見て。
そりゃ悪かった。ちっとも悪いなんて、思ってない声で言って。


アタシも好きだぜ?

え?

アンタの熱視線

…っ、


男らしい語尾をつけて、わざとらしく低音で囁いてくるときは、もう最っ高に、悪い表情、してる。
とてもとても魅力的だけどとびっきり心臓に悪くて、私に優しくない、わたしのためのそのお芝居にかけるのは、いつだって拍手で白旗だ。


素敵でしょう?

あァ、とびッキリの贅沢だね


感嘆のため息も期待の吐息も、全て奪い取ってもらうための口付けは、だから、私からあげる花束。
独り占めさせてあげるけれど、一人きりで楽しませてなんてあげない。










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ふたりのメロディ
  (槙ナン)





うるさいと、はねのけること自体は簡単なのだ。
……それが通じるかは別として。


…おい、上条

なあに?

邪魔。

ええ?


……静かにしてるじゃない。
呟きには無視。口を噤んでれば良いってモンじゃねえ。
妙なトコからおかしなご登場、直前まで気配もなくて寿命を縮めさせられんのなんて茶飯事のクセに、
いざ認識したらしたで、クソ重い存在感のみに飽き足らず、これだ。


まず、近ぇ。

遠ざかればいいの?

あと見んな。笑うな。

だって、興味ふか、

出てけ。

いやよ。


出掛けの時間まではまだ相当あるし、待ち合わせ場所もここじゃねえ!
わめいても、待ちきれなかったんだもの、という返事が返ってくるのがわかりきってるから、仕方なく、再び鏡に向き直る。
シンプルにさらっと決めてくるのは想定通り、揃いにするほど頭に花咲かせちゃいねえからこちらもいつもよかやや抑え目に、浮かないように、程度に合わせた服に、刺さる視線に目くじら立ててたら時間オーバーする。
こいつがこんなバカをしでかしてくれたせいで、あっちの棟までの移動時間だとかを考えなくてもいい分は、もうとっくに気の抜ける応酬で使い切ってしまった。


どっちがいい?

…え?
……じゃあ、そっち


両手に持ったピアス、鏡越しに指さされたのは、まあ、諦めるとしてだ。
別に露出させてるわけでもねぇ腰をどさくさで撫でてきやがった分は、遠慮なく、左後方のつま先を踏みつけてやった。
シルバーに赤のイミテ、ぱちりとはめて、んじゃ、行きますか。
ンだよ、あんま拗ねてっと今度からはシドみてぇに蹴飛ばすぞ。














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各タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。












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