――求めれば。
どこまででも与えてくれるから。
だから、怖くなる。
首に腕を回せば、キスをしてくれる。
そっと足を開けば、望むままに手を割り入れてもらえる。
筆を握る手は優しいままにしつこくて、剣を持つ手は的確に鋭く、まっすぐで――
そんなことまで知っているのに。
私たちは付き合っていない。
先輩は優しいから、求めたらきっと叶ってしまう。
私が望むから、先輩は付き合ってくれている、だけなのに。
拒絶しない先輩に「言わせてしまう」告白は、いつか先輩を縛り苦しめるから。
指も、舌も、全身にめぐらされて。
耐え切れず身体を震わせて、涙目の向こうに見える先輩はやっぱり困ったような表情で。
私がこんなに満たされているのを咎められたようで、快楽のひとつひとつが私を責め立てる。
先輩を困らせているのだから、これくらいの苦痛、なんでもないけれど。
先輩の気分で抱かれ方が大きく変わるのだけが、先輩の欲求が垣間見えるようで嬉しくて。
どんなことをされても、最後にははしたなく喘いでしまう。
本当は先輩に抱かれたいだけじゃない。
求めて、求めて、求めて――もらった分を返したいと、切に願うけれど。
先輩を汚したくない。私の身は今更だけれど、多少乱暴にされた方が感じるくらいにはいやらしいけれど、貪欲に先輩を呑み込んで、満たされているけれど――
きれいなひとだから。
そのやさしさに、あまえさせてもらっているだけなのだから。
そのこころまでは、のぞみませんから。
だから――
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――求めれば。
どこまででも受け入れてくれるから。
だから、怖くなる。
良い? と聞けば、小さく頷いて首に腕が回る。
最中のときはフイと顔をそらされて、おずおずと足が開く。
勝手な指先をどこに触れても、割り入れても、従順に受け入れるゆかりの姿は、快楽を与えれば与えるほど苦しんでいるように見えて――
どこが感じるのかも達したときの表情も知っているから、なんだと言うのだろう。
私たちは恋人同士なんかじゃない。
時には、戸惑いや葛藤で不安げな顔をして。
でも最後には否定しない。拒絶されない。
ゆかりは、――ゆかりのことなら、本当に。
指も、舌も、全身をめぐって。
堪えきれなくて暴走しても、気付いたときにはやっぱり従順に身を委ねたままこちらを見つめていて。
できる限りの優しさをこめて抱いても、ちょっと怖くなるくらい乱暴にしてみても、求められたくて焦らし続けても。
ゆかりは受け入れて、私を許して、結局同じところに行き着いている。
それなのにこちらの快感の深さにゾッとする。
ゆかりを抱きたいだけじゃない。
求めて、求めて、求めて――、受け止めてくれた欲がどこに行き着くのか確認したくて、泣きたくなるけれど。
ゆかりをこちら側に来させたくない。抱く側の罪は明白で、世間からあの子たちから謗られる覚悟はできているけれど、いけないことをする指はどんどん染まってゆかりなしではいられなくなっていくけれど――
よくできた後輩だから。
私には勿体無い信頼を向け続けてくれる気の強い瞳を裏切ることはできないから。
恋愛としての情までは、欲しがらないから。
だから――
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