so loving you




なんでこの形に収まったのかを改めて考え直してみると、なんだろう。
たぶん、ちょうどよかったからだと思うんだ。


あたしにとって夕歩が大事なのは当たり前過ぎて、好きとか愛してるとかそういう次元じゃなくて、かといってあたしのすべてかというとそういうわけでもなくて、むしろそんなのおこがましい、どっちかっていうと夕歩の一部になりたい。心臓とか頭とか、そんないいとこじゃなくていいから、夕歩の役にちょっとでも立てて、そしてできたら夕歩もちょっとだけあたしのこと気にしてくれる、それくらいでいい。血潮とかエロいよね!あれ、そんなことない?もちろんあたしのこと食べてくれるなら喜んで差し出す。あ、性的な意味じゃなくてね。うわードン引きって顔してますよ、染谷さん、染谷さーん?


「……ちょっと、想像以上だっただけよ」

「ん?」

「あなたの愛の気持ち悪さが」

「えー、染谷さんひどーい。
 ただひたすら一途で深いだけじゃないですか」

「間違った方向にね」

「お、もしかして妬いてます?」

「冗談。
 そんな愛情、間違っても要らないわ」

「そりゃー混線はしませんけども、
 ……それやっぱりひどくない?」

「私からしたらむしろ夕歩が可哀想なんだけど」

「それ言っちゃいますか染谷さん……」

「本気でへこむなら最初から言わないで」

「だってさあ……
 あたしにとっての夕歩ってさあ……」

「はいはい、天使なんでしょ?」

「だからぁ、
 そんなことばだけじゃとても言い表せないのです。
 そして染谷は愛してます」

「…それはどうも」


ここで動揺してくれるのを、そしてそれを静かに覆い隠してくれるのを、愛しく思う。
甘えるだけ甘えてたら重いって言ってくれるのを、その心の中にあたしより何より大事な存在を飼ってるのを、心地よく思う。
たまらなく欲情した顔をして。まっすぐに愛されてるのは確かな事実で、普通はもうこれ以上は望むべくもない、と表現すべきで。
それでも好き、を伝えたくなるから、たぶんちょうど良いんだよ、あたしたち。


「言葉遊びね」

「嫌いじゃないでしょ?」

「好きでもないわよ」

「だったら何がお望みで?」

「あなたのそういうところが」


嫌いだわ、と心底うんざりした顔で、声で。
へへ、こんなに愛されちゃっていーんでしょうか、あたし。


「ポジティブが過ぎるのも考え物ね」

「お、嫌がらないってことは、」

「順」


ほら、うまく隙間が埋まる。絶妙のタイミングで、怖いくらいぴったりと。
代償じゃない。夕歩の代わりには誰もなれないしあんたの代わりもどこにもいないのに、他のひとにはちっとも理解されない幸福のこの形。
あんたがわかってくれてんならそれでいいや、と思えるくらいには馬鹿みたいに満たされてるんで、だからもっかい染谷からキスしてください。


「いちいち口に出さないでいいわよ」

「それでも出すのが順ちゃんの愛情表現なんです」

「今からでも躾け直してあげましょうか?」

「うわあ、女王様宣言」

「尻に敷かれるのが好きな癖に」

「まあね、つまりお似合いってことだよね」

「心から嬉しくないわね」


呆れた目の奥で、嬉しそうに笑ってるくせに。
あたしってば好きって伝え続けてないと死んじゃう生き物なんです。世間様へのちょっぴし過激なリップサービスも、そのひとつのかたちに過ぎないのです。


「…やっぱり根本から仕込み直そうかしら」

「わーお、たのしみぃ」


似合わないとか、所詮同性同士の飯事だとか、そういう的の外し方なら笑って受け流してあげる。
歪んでるって言われたら、まっすぐな恋愛って何? と聞き返してあげる。
染谷もあたしも、勿論夕歩も綾那だって、可哀想なんかじゃ無いって胸を張って言い放ってあげる。
いや姫様やあいつの恋愛自体については(責任取れないって意味で)知ったこっちゃないけどね。
どっちも馬鹿みたいに純心だから心配だけどさー。しゃしゃり出て文句でもつけようもんなら、怒られるし張り倒されるのは間違いないし。
目の前のこの人はあたしの無様を醒めた目で一蹴して、同情のひとつもくれないだろうし。


「…どうしたの?」

「ん、しあわせだなーって」

「……そういう感情を口に出すの、珍しいわね」

「そー? 
 …そーかも?」


愛してる、愛してる、愛してる。
今この瞬間の約束はいくらでもできるけど。
過去を肯定したり、未来を縛り付けたりするのは苦手だから。
染谷の口下手ほどじゃないけど。いやこれはツンデレって言うんだっけ?
なかなか好きとも言ってくれないし――


「……もう。
 ――好きよ、順」

「お、おお!?」

「……たまには、ね」

「いやいや、そんなこと言わずに。
 いつでも大歓迎! お待ちしております」


言ってはみたけど、実際こんな積極的になられちゃ心臓がもたないだろうな、とか。
おんなじことを染谷も考えてるだろうな、とか。
誤魔化すためのキスは、でもふたりとも同じ目的だったから、どっちにも罪は無いし共犯ってことで。
ていうかこれ、二回戦のお誘いですよね? そうだ、よね?


「…だから、いちいち確認しないで」

「はあい」


つまり一言で言うなら、これ以上なく満ち足りてますので大丈夫ですよ、ってことです。
そんでこっから先のお口は、遠慮なく別のことに使わせて頂きますので、覚悟しといてください。











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真面目に順ゆか。真面目な順ゆか。
つまり密室の混線とは別時空です。










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