待ち望んでいたはずの柔らかな感触なのに、それに埋もれてしまうのがさびしくて、背から抜き去られ離れていく腕をとった。



すいちょくらっか



脱ぎ捨てた服の行方をぼんやりと見つめている間に、同じように素肌になった先輩が私と同じ高さまで降りてくる。ベッドの外で重なり合ったふたり分の衣服から、目を離させられたのは、優しくひっくり返されたから。

先輩の肌が思ったより冷たくないのに安心して、素直にその腕の中に収まる。
嬉しそうな笑顔を無邪気に振りまいているに決まっている先輩と視線を合わせるのが気恥ずかしくて、顔を隠すように胸にうずまれば、一瞬の動揺の後で先ほどの何倍も大きい抱擁が降ってきてさらわれる。

ストレートに伝えられる先輩の感情が、嬉しくて、気持ち良くて、思わずゆるんでしまった顔はでもやっぱり向けられなくて。そのまま、やわらかなふくらみに押し付けるように擦りつける。
体温がなじんでいく傍らで、じわじわくすぶり続ける熱に煽られて、まるで、もっともっととねだっているみたいで。それはそのうち本当になって、私の気持ちの折り合いという収拾がつかなくなってしまう。

私ばかりが熱いのは、さびしい、から。

だからです、とこんな心境を吐露するのは得意ではないから、うながされでもしなければ口には出せない。つくづくかわいくない性格だと嫌になるけれど、先輩はそこが可愛いのよ、なんて笑うし、嬉しそうだし、先輩がそれでいいなら――と結局甘えてしまうのだし――

思うようには伝えられないのはいつものことなのに急にもどかしくなって、さっきから触れっぱなしのすべらかな肌に口をつける。
跡はつかないやり方で。つけていいのに、と先輩は笑うけれど、だって、こんな後戯(前戯?)未満のじゃれ合いにまでを自分に許してしまったら、歯止めがきかなくなってしまうじゃないですか。
というのは、実際口に出して言ったというか、……言わせられたというか。

先輩には、かなわないなあ、と思うのと同じくらい、ずるいですよ、と思う部分がある。
好きだけど、好きだから、許しもする代わりにいつまでも諦められない。


「あんまりそこで丸まってると、窒息するわよー?」

「…しませんよ」


先輩のずるいところを思い出してました。
とっくにゆるめられている囲いが動いて、頭をなでられながらのにくまれ口は、恥ずかしいくらい甘い。くらい、なんて留保してる場合じゃない。恥ずかしい。恥ずかしくって苦しい。

もう一度顔を隠してしまいたくなったけれど、それを察した先輩の手が髪の隙間からこぼれ出て顎にそえられて、視線を感じたのは一瞬だけですぐに一口で食べられてしまうようなキスをされて――
私の羞恥を知っておきながらしっかり見てくる、でもやめてくださいという前にあっさり引かれて、だけれどそれは私ばかりのためではなくて、強引にさらわれたと思ったらやさしくなぞられるのはお決まりの手管なのにいつまででも慣れない。

先輩にしては激しいキスが、あっという間に私を高めていく。独占欲でも征服欲でもなんでもいい、本当に稀に主張される私への執着は、苦しければ苦しいほど嬉しくて泣きたくなる。

ああ、お互いの願望が噛み合うって、しあわせだな。
本当は今日は思い切り甘やかされたかったから、後はその波に素直にさらわれてしまうことにした。










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かわいいあなたと~の続き。
2回戦到達前に力尽きたとも言います。乗っているうちに書けたら懲りずに続きます。










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