まだ、もらえない 1




いやだ、と泣いたら望むものが与えられるなんて、こどもの頃でさえ思っていなかった。
本当に欲しいものならば与えてもらえる環境だったからこそ、その審査は周りよりもずっと厳しくて、自分の欲求をいちいち厳格に査定される心地さえ、していた。
幼心に納得もしていたときから性格は変わっていないのに。私はあの頃よりよほど我慢が効かなくなってしまった。
あつい、くるしい、こわい、でもきもちいい……


「……せ、…んぱい、」

「なあに?」


お決まりのやり取り。嬉しそうに笑ってるんだから、今の私の状態をわかってるのは間違いない。
そもそも触れているのは先輩の手なのだし、今日は厭味なくらい完璧に、逸れたところしか触ってくれなかった。始まりの、こめかみに落ちたキスから順々にくだって、首元と胸周りを通り過ぎ腰に辿り着く前には気づかされたのだから、徹底している。
思い返しただけで、じわ、と潤む瞳。放っておいたら溢れて止まらなくなりそうだったから、きつく目を瞑って過去と未来と、現在の熱までまとめてやり過ごそうとする。
鋭敏になる聴覚と嗅覚、触覚。ふふ、と笑う声がしたと思ったら鎖骨に唇がつけられ、舐められ、くわえられる。
びくっと小さく跳ねただけに留められたのは、我ながら上出来だと思う。
吸い付かれないのは明日体育があるから、だろうか。そういえば今日は、あまり変な場所にキスをしてこない。
その分指使いはしつこくて、嫌じゃないけど優しすぎるせいでもどかしさが苦しいくらいで、もっと強く、……爪を立てるかいっそ噛んで欲しいとさえ思っていたけれど。私の明日を気遣われていたのなら、口にして強請ってもきっと叶えてはくれなかったのだろう。
……言わなくてよかった、とこっそり思う私の肌は相変わらず、焦れったくなぞられ続けていく。


「あ、…ぁ……」

「ゆかり、いいの?」


結局願望を口に出せなかった私に、残酷な確認。
よくないです。もうむりです。……つらい、です。
本当に限界、というところまでは来ていないからまだ、言えない。
目を開けたら先輩の顔が想像よりずっと近くにあって、思わず腕を伸ばして抱え寄せて自分から口づけていた。
すんなり応えてくれる優しさは素直に心地良い。本当は脇腹の辺りを往復している先輩の右手を、掴んで望むところに持って行ってしまいたかったけれど。そんなこと恥ずかしくてできないから、だから、私自身を誤魔化すために激しく口内を貪る。
左目が先に、つ、とあふれた涙を押し出し、伝わせた。


「んく…っ、…んっ」


先輩が気づいてしまったら、きっと暫くは左頬の傷痕ばかりを弄られる。想像だけで身体の奥がきゅう、と蠢いたのには気づかない振りをして、せめて、と息が続く限界まで求め続ける。侵入しているのは私の側なのに、吸い上げるのも噛んでくるのも先輩の方で、反射的に縮こまると宥められるから、結局逃れることも反撃することも叶わない。
それでも来てしまう終わり際には、頭のモヤが濃さを増していて。息を弾ませた唇が目前に迫るのを唯待ち受けることしかできなかった。







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