…染谷?

ひ…っ

繋がった?


携帯を押し付けられた方で囁かれ、息が止まった。




if connected(from密室の混線/順ゆか要素有)




……あ、ぁ…っ


いっそそのまま気を失ってしまいたかったけれど。そう都合よく眠ってはくれない肺が、再び空気を欲して活動を再開する。
そのタイミングを図ったように動き出され、望まない声が漏れる。肺が絞り出しそして絞り上げた息に乗ったそれは吃驚するくらい大きくて、無駄だとわかっているのに唯否定することしかできない。


やだ……やめ……っ

え、何、どっきり? 

順ちゃんに春をプレゼント企画?


どっきりって何よ。そもそも電話してきたのはそっちじゃないの。
悪態が口に出せないのは、先輩の指が止まってくれないから。私の中に入り込んだまま、弱いところに押し当てたまま、そこからの快楽を念入りに引き出そうとしてくる。
ほとんど動かない分余裕なのか、執拗さにどんどん追い詰められる。
逃げ腰になるとそれを逆に利用して抉られるのは常のことで、どうあっても先輩の好きにされるのだという絶望は普段ならどこか甘やかでさえあるのに。
中途半端に脱がされた服が手首周りにわだかまっているせいで後ろ手に縛られているのと変わらない拘束だって、ふたりきりなら、好きとは言えないまでも(先輩が楽しそうだから、)受け入れてしまえるのに。


聞いてるのよ? ゆかり

切ってっ、ください……っ

ゆかりー? ちゃんと繋がってる?

はっ、うあっ、やぁあっ……


気を逸した一瞬の隙に喘ぎ声を暴き立てられて、慌てて口を閉じる。
唇を噛み締めると、いつものように先輩の指先がなぞってそれを止める。
片手が塞がってる先輩にとって、その手とはすなわち今の今まで私の内を苛めていたそれであり、つまりそれは私の唇に自分の愛液が塗りつけられるということで、ずるりと抜けたときの喪失感と快感に身を震わせていた最中に与えられる刺激は更なる愛撫以外の何物でもなくて。
首筋に息を吐きかけてから、耳元で囁かれるのは勝手な言葉。


久我さん? 何か用だった?

あー、いえ、だいじょーぶです
それよか今を楽しむ方が優先です

あ、そう? それはよかった


……ちっともよくない。
滲んだ涙がついに零れ落ちたのは、先輩が私以外の人に話しかけたことを改めて認識したせい。
苦しさが、甘くなってくれない。普段は先輩にしか届いてないから、先輩が全部受け止めてくれるからどこまででも快楽を追えるのだと、頭の片隅でちらりと思う。


んん……っ


思い切り首を振ったら、流石に指先の悪戯は止んだ。
つまり電話の固定だけはし通されたということで、順の荒い息が耳元からしつこいくらい伝わってくる。
自分の声は、音は、どれくらい伝わってしまっているのだろう。わかっているのにわかりたくなくて、意識から追い出してしまいたいのに代わりに集中する先が見つからない。


暴れないの

ひぐっ


あくまで優しい声に、架空の性感帯を逆撫でされる。
いつかの宣言通り唇の隙間から指が挿し込まれて、左腿の上の重みが姿を消した代わりに付け根に押し込まれた。
悲鳴を咄嗟に堪えようとして、先輩の指を噛んでしまいそうになって、慌てて緩めたらだらしない声が溢れ出して。
もう自分ではどうしようもない。先輩に言っても絶対やめてくれない。
現状をどうにかしてくれるかもしれない唯一の相手には、心から頼りたくないのに思い浮かべた瞬間縋ってしまっていた。


順っ、きって、おねが……っ

久我さんにおねだりしちゃうの?


ちょっと妬けるわねえ。
にこやかに、先輩が妬心を口に出すのは全然そんなこと思ってないときだ。
口実に何をされるのか、一瞬の想像だけで身体の奥が震える。
あっさりと口内から退散された指先が、傷痕をなぞって。むず痒さに付随するべたつきは、もちろん涙と汗だけのせいではない。


やああっ……はっ、…はあっ、ま…せんぱ、だめっ……


指が動く。暫く離れていた私の入り口を確かめ直すように、ぐるりと動かされて、ついでのように芯に触れていく。たまらず反応すると硬い部分が押し付けられる。あと少し角度がずれたら、爪が刺さる、状態で軽く揺すられて、ぴりぴりと疼いていた胸先が一瞬だけ満たされたせいで更なる渇望を産んで、何を堪えたらいいのかわからなくなる。
自分の口を閉じなければ、でも先輩に訴えないと、お願い、しないと、
焦る気持ちが、急くばかりで空回っているうちに。


ひっ……ああああっ


指が捩じ込まれ、引き攣った悲鳴が迸った。


……すっご


ごくり、と唾を飲み込んだ音の後、掠れた順の声。
逃れたくて身を捩る。一瞬離れた電話口、すぐにくっついたのは今度こそ花芯に爪を立てられた私が抗う力を失ったから。


うあ、…や、あ、……ああっ


強烈すぎる刺激に軽く達したせいで、痙攣した身体がますます私の制御から離れていく。
でも本当の果てにたどり着いてしまうのが嫌で、必死で振った首は今度こそ快楽を逃すためだけが目的だけではなかった。
今日は自重しかかかってないのに、ベッドと身体の間にある両手がひりひりする。そんな僅かな痛みを殊更に意識することで気を逸らそうとしても、私の中とそのすぐ外で蠢き続ける先輩の指に阻まれてしまう。
触れ方が未だ優しさの皮をかぶっているのは、これからの山場を長引かせるためだと知っている。教え込まれてしまっている。


せんぱ、やだ……やだぁ……っ


涙がぼろぼろ溢れて、止まらなかった。
身体は勝手に高まるのに苦しくて、私に触れているのは先輩なのにいけない。いきたくない。
部室や寮で、……たまに外で、誰かに気づかれないように声を抑えるのとは違う。どれだけ抑えても、こらえても、私の痴態が先輩じゃない人に伝わってしまっている。


……ゆかり?

あー……

槙さん、そろそろ切ってあげた方が……


……あなたから切りなさいよ。
思ったけれど、もう、反論として口に出す気力もなかった。








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after that



件名:っていうのはどうでしょうか!


もうだいぶ夜も遅い時間のメール、久我さんからだったことにまず吃驚して、それから件名に深刻さがなかったことに一安心する。
ゆかり以外と頻繁にメールをする習慣はないから、他の人から来るとちょっとしたプレゼントをもらった気分で嬉しい、というのはゆかりには内緒にしている。
わくわくしながら開けたら、……その、こんな文章が書き連ねられていたわけだけど。


……久我さん、流石だけどメール自体は消去していいかしら


一文だけしたためて、返信する。よかったし、もったいないけど。……なんて素直に打ってしまったら、色々なところからお叱りを受けそう。
バレたとき一番怖いのはもちろんゆかり、だけど。思い返してみると、ゆかりの心境はわからないにしても、普段の内容としてあながち間違ってもいないのが……普通だと安心していいのかは、久我さんだから判断がつかない。


でもそうよね、両手が自由なままだと携帯取り上げられちゃうし、ソファだと落ちちゃうわよね……


……ん……せんぱい?

わあっ!

っ!?
……え、どうしたんですか……?


ついさっきまですやすやと気持ち良さそうな寝息を立てていたのに。私の吃驚した声が一番大きかったけど、それで起きたわけではもちろんない。
発光する液晶画面、結構長い間見つめてしまってたし、眩しかったかしら……。


いやっ、なんでもない、なんでもないの!
ごめんなさい、起こしちゃった?

それは、べつに、かまいませんが……
どうかしましたか?


慌てて誤魔化す私に、眠そうな目を向けてくるゆかり。
……可愛さに胸が高鳴ってしまったけど、あんまり顔向けできない想像をしていた自覚はあるから、気まずさが先に立って動けない。
いつもなら、この時点でちゅーとか、ついしちゃうんだけど。


だから、なんでもないって……

……言いたくないことなら、なんでもないじゃなくて、言いたくないって言ってください
なんでもないってことば、あまり、好きじゃないです

……はい、ごめんなさい


薄闇でも分かる、不機嫌さに身が縮こまる。
液晶画面をずっと眺めてたせいで夜目に戻ってない私にわかるのは、ごく至近の距離だからということもあるし、……漂うオーラが既に怖い、し。


それで、

……久我さんからのメールがちょっと、

……あの馬鹿
…先輩に何送りつけてるのよ…

……見る?


この状態のゆかりを宥める自信なんて全くないから、おそるおそる申し出てみたり。
……本当に見られたらどうしよう、夜分に殴り込みは迷惑よね……。
無道さんもいる部屋で怒ってるゆかりとか、できるなら未だにちょっと見たくないし……。


見たくないので、別にいいです
……なんですかその顔

え?

そんなに変なメールだったんですか?

あー、いや……うん、「言いたくない」って、有効?

……もう


小さく鼻を鳴らしたのを最後の不機嫌にして、次の瞬間にはゆかりはもう柔らかい笑顔を浮かべていた。


いいですよ、せっかくのふたりきりですし

……そ、そうね!
ふたりきり、だものね

……?

あはは……


うん、気まずい。
久我さん作(多分)のアレを消すの、もったいないかもとか思ってごめんなさい。久我さんとのときもこんな風だったのかしら……とかうっかり思ってしまったのはもっとごめんなさい。
心の中でゆかりに平謝りして、今の幸せを味わおうとそっと手を伸ばす。


……携帯、鳴ってますよ

いいのよ


あ、それ以前にこの間の部室でのあれ、謝り直すべきかしら……でも今更蒸し返したら藪蛇よね……。
そうですか? とちょっと心配そうな顔をするゆかりに盛大な罪悪感を抱きながら、それを誤魔化すようにきつく抱きしめた。
好きよ、と囁けるのは、こうやって腕の中に抱けるのは、今は私だけなんだと確認したかったのかもしれない。













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順は翌日廊下で遭遇したゆかりに詰問されます。
槙さんは件のメールを当日中に消さなかったせいで、やっぱり勿体無いし……とか思い始めて謎のチキンレースをしばらく独りで開催します。
結局バレた先が紗枝で大惨事になるに一票。










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