それが天国の正体。(ナン紗枝)



「誰でも良かったし、どうでも良かったんでしょう?」

「はあ?」 

「いいのよ、どうせ私なんて、」


アホか。
弱ってる時のこいつは、意外にも有り得ねえくらい陳腐な自己嫌悪に走りやがる。
そのテンプレに何の意味があるんだか。以前ぽろっと零したらガチで傷つきやがったから慌てて撤回した。
普段人を食った性格してる分、ガス抜きはわかりやすい形になるんだろ。っつーことに今のあたしん中ではなっている。
お嬢サマらしからぬこれまで、を露悪的に開陳してくのもいつも通り。一夜の遊びだとか暇潰しの相手だとか。どれもこれもあんたがそう仕組んだからそうなったんだろーが。これも言わねーけどよ。
そんで最後はあたしまでおとしめようとすんのな。どーしてそこまで愛情を疑いますかねぇ。
自分が信じてねーから、言葉で否定されたくもないらしいし。仕方ないからいつもなら行動オンリーで上書きしてやっけどよ。
今日はそんな気分にどうにもなれない。ちんまい机の対角線上というポジションもいまいちよくねーな。移動すっか。


「どうでもいいなら相手にしないっつの」


立ち上がって、愚痴愚痴と惨めったらしい姿を晒してるバカに言い放ってやる。
きょとん、とした顔があがった。なんだよ、無防備に晒しちまって。珍しい。そんで、カワイイ。


「……え?」


え、じゃねーよバカ。あーもうホント、バカ。
シドだの神門だのな直球型よか、あんたみたいなヤツのがよっぽどタチわりーわ。
恋愛は初心者どころじゃないし、心理戦なんざ十八番なくせに。
こいつの過去は事実、たまたま話してくれた範囲内だけで充分昼ドラ放映して釣りが来そうだった。
ぽつぽつと紡がれた後で、嫌いになる? とか聞かれても困る。困らせたくてやってんならこっちにも手があるが、本気で不安そうな目つきで見上げられると、


「…だっせーの、」


お嬢サマの面倒くさいとこを見せつけられて心ときめかせちまってんだから、あたしも大概だな。
顎を取ってやれば硬直する身体。そんでもってそのまま固まりっぱなし、顔から首元までじわじわと赤くなる。
なんとも可愛らしい反応だコト。からかえば、貴女だからよ、と返ってくるのが目に見えてるからそのまんま、な。


「もー……、ばか」


見事なまでに説得力ねーし。両手が机の上のままなのはわざとだろーけど、しがみつきたがって揺れてんの、見えてんですけど。
ったく、こんなとこでバトってても仕方ないだろーが。
ほら、何度でも上書きしてやっから。さっさと目を閉じろって。









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久々に御題。










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