なくしたものを数えてばかり



あ、

ん?

外、雪みたいです

本当? 寒いはずね

そうですね。
暖房、強めましょうか

いいわよ。
これ以上あたたまったら、頭がぼうっとしちゃいそう

じゃあ、しばらくはこのままにしておきますね。

うん。
帰り、積もってるかしら

さあ、そこまでは……
でも、積もってるといいですね

ん?
雪、好きなの?

はい

あら意外。

そうですか?

嫌いじゃありませんが、とか言うのかと

…もう、からかわないでくださいよ

ふふ、
だって素直なゆかり、かわいいんだもの。

……絵筆、止まってますよ

いいのよ。
雪降ったし、休憩。

なんですかそれ……
描かないなら、筆、置いてください。
危ないですから、

はい、置きました。
ゆかり、夏が好きって聞いてたから意外だったわ

確かに暖かい方が好きですが。
どうせ寒いなら、雪くらい降ってくれなくちゃつまらないじゃないですか

そういう問題なの?

今はそれほどでもありませんが

じゃあ積もってくれると、いいわね

……だから今は、

私とふたりで、ゆかりがつまらなくなくなってくれるかはわからないけど

……先輩、

なんだか本格的に一息いれたいかも。
ゆかり?

……はい。
いつもの珈琲でいいですか?

うん、宜しくね









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掬ったしあわせのその先が(from密室の混線)




ちょっと待ってください、
…せんぱい!

暴れないの、

あのっ! 先輩、…ってば、
……やっ、

痛…っ

あ、
…だ、大丈夫ですか!?

うん、大丈夫大丈夫。
はい、身体戻して、

だっ…から、

その格好、辛いでしょ?

……足、離してくれませんか

離したら逃げちゃうじゃない

…逃げませんから。

しあわせだけど、まだ、足りないの

……はい、

だから、

その、いい加減、対面に戻りませんか。
…この体勢のままって、好きじゃないです

そうなの?

そもそも今の会話だって、おかしいですし…
ですから、

でも、「はじめて」だから、ね

ぃ……っ

あ、ごめんなさい

……やっ、…ぁ……

…かわいいわよ、

やっ、…ま、せんぱっ、
…っ、

唇、噛んじゃ駄目よ

はい、
……あの。

んー?

……やめてくださるつもりは、無いんですか

ゆかりがどうしても嫌だっていうならやめるけど

……じゃあ、

嫌な理由は後でしっかり聞かせてもらうわよ?

………

観念した?

……このまま、でも、どうせ最後には、

なあに?

……先輩は、いじわる、ですよね

先輩「は」?

そういうところが、

ゆかりだって、

…え?

遠慮されたく、ないんでしょう?

…論点がずれてます。
……もう、

ん、


最後に、とキスをねだったのは小さな欲張り。
それに目を細めて本当に幸せそうに笑ってくれるから、だから、
……一度くらいならいいか、という流され方が尾を引く羽目になるのは、薄々予感してはいたけれど。
その諦め込みでの妥協もまた、ただ恥ずかしい甘ったるさを助長するだけ。













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敷き詰めたのはしあわせです(from密室の混線)




そりゃあまあ、こんなところでしたがる自分が原因、なのかもしれないけれど。

あんまり触ってないなー、と思ったのがきっかけ。
ちっとも触って無いわけじゃ無いけど、…まあ結構揉んでるし撫で回してるけど、黙視と口づけの機会はすごく少ない。比較した結果じゃなくて、実感として。
胸に限らず、おなかとか。


…着たままって、普通なのかしら

……知りませんよ


一刀両断、がちょっと肩透かしで首をかしげる。
ああ、無意識では軽口(「順や綾那に聞いてください」、とか)がくるかと思っていたのかな。
ぷいと反らされた顔、唇が引き結ばれて分かりやすい拒絶。
今の私なら本当に聞きに行っちゃいそうだものね。
……ゆかりの言質は無いけど、後で行っちゃおうかな。気になるし。


……とにかく、
私はこれで満足、ですから


ぼんやりしていた私の右手を取られ、指先に唇が滑る。
なし崩し、だったから黒鉛の粉がついたままの指の腹に今更気づいて、その日常の欠片が何故だか気恥ずかしくて、頬が熱くなる。


ゆかり?
…ん、


躊躇なく吸いつかれてぴりりと痛み。
引き抜いて、ついまじまじと見つめたけれど跡は見当たらない。黒い粉のついた薬指小指ではなかったから汚れ具合はそのままで、人差し指に残る感触もあっという間に消えていく。
少し寂しくて、濡れてる部分に自分の唇を当てた。


……何してるんですか

んー?


愛情確認?
なんて言ったら、また、恥ずかしがってくれるかしら。
呆れる瞳が少しだけ揺らいでる。彼女特有の照れ隠し。
愛しいからこそもっと欲しくて、足りないとねだりたくなるのよ。












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「なくしたものを数えてばかり」「敷き詰めたのはしあわせです」はふたりへのお題ったーよりお借りしました。










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