この皮肉の帰る場所これの続き)




しっかし、まあ。


「アンタも大概上条のことスキだよな」

「好きっていうか、」


口ごもる姿は真横、よか左下に近い。
この距離が定位置になったのは結構最近だが、その主な原因は長かったシコウサクゴ期間のせいだ。
よくもまーいろんな形でくっつきやがって、毎度オドカされる反面こーゆーのが趣味なんかとも思ってたら、あるときからぱたりと一本化した。
手にはマグカップ、だが中身はダージリンのストレート。
上条のリクに合わせて淹れて飲んでたのはコーヒーなのに、わざわざ紅茶を所望するのがコイツだ。


「……ファン、なんだもの」

「……は?」

「なによー」


そこで真剣に照れられるとコッチが困んだが、つーかファンって何だよ。
紗枝ってそんな上条と仲良かったっけ? いや廊下で遭遇すりゃアイサツくらいはすんだろう間柄なのは知ってるが。
てっきり自分繋がりだと思ってた線がトートツに横から生えてきた心境は、何とも言い難い。マジで。
少なくとも自分がどんな顔してンのか読めねェ程度には。そしてそんな状態のアタシを見上げる紗枝は矢鱈に楽しそうだった。


「そうねー、例えるなら、」


デビュー時代から応援してたアイドルが、最近人気出てきて複雑な気分?

マジ顔なのが笑い飛ばすっつー逃げ道を塞いで、イヤナニ言ってんだよアンタ、とツッこむことすらできない空気が黒々と落ちて、気分はアレだ、今扉を叩いてくれンならルームメイトでもシドでも上条でも歓迎してやるだから誰か来やがれってんだ。アイツら普段はホント邪魔ばかりするクセに、役に立たねェ……


「だから柊ちゃんにも嫉妬してるんです」

「……へー」

「上条さんに頼られてる柊ちゃん見るのは誇らしいけど、
 でも」


その続きは聞かないでおく方がオタガイのタメなんだろーな。つーことにした。そう決めた。
まさか今更紗枝相手に、怖気だって生唾飲み込むハメになるとは思わなかった。
底知れねーから面白いってのも真理だが、コッチ方面の探求は出来ることなら今後とも遠慮したい。


「そうだ、柊ちゃん。」

「…あ?」

「そういえばさっき、「アンタも」って言ったわよね?」


げ、イマサラそこ拾うんかよ。
にこやかな作り笑いは今度こそアタシの反応まで織り込み済みの故意犯ってヤツで。
本音にイロつけるつもりはねえが、どう返しゃコイツの満足になるんだか。
どーせなら喜ばせてやりたいが。そんなにあっさり分かるようなら苦労はしない。


「べっつに、一般論だケド?」

「嘘っぽーい」

「サスガに嫌いとは言わねーけど、
 好きっつーにはメンドすぎんしなぁ」


まっすぐに見えて屈折してるとか、その屈折の原因がまっすぐさ故だとか、そのせいだけじゃない捩れた恋愛模様をダダ流しとか、……ホント、イイカゲンにしろっつーな……。
イッコ上への偏見は紗枝のせいだが、イッコ下へのそれは完全に上条からの刷り込みだ。
この学年で良かった、としみじみ思っちまう辺り、天地のバカ吸引力はロクなモンじゃない。
せめて裏表が無さそうで無いヤツとか、有りそうで有るヤツとか、そういうわかりやすさを寄越せ。
間違いなく後者なコイツは、有り難くもらっておいてやる。


「ヘンな評価ー」

「そーかよ」


他に何を言えってんだ。
仮面みてェな笑みがいつの間にか消えてたことに胸を撫で下ろしてるアタシはそれなりにカッコ悪ィ。機嫌良さげな紗枝が凭れてくるせいで、要らん中身が伝わってんじゃねーかと心配しちまうくれーには、アンタに参ってンし、


「…そういう意味での好き、じゃないのよね?」

「あ?
 アンタ以外のヤツは誰だろーが恋愛対象外だけど」


それがどーしたよ。
そんでお前も、呆気に取られてンじゃねーよ。コッチは素で返しちまったんだからよ。


「……わぁ、」


顔を伏せるとか、させてやらんコトを自覚してくれたンは及第。
仕方ねーから、と云う体で受けたキスにうっかりマジんなって、部屋の鍵もかけずにそのまま、っつのは、アタシだけのせいじゃねーと主張しておく。

(つか、アタシが自重したトコに限って自分から率先した行動してくんのはわざとなんかよ?)

つったら首肯が返ってきそうなのが、なんだかな。
好きだからっつー理由で何もかもが許されるワケでも無ェしなぁ……。








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タイトルはreplaさまの御題より。
この槙ゆか、時空は例のアレなので、はい。











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