Angel Dive
後ろから回した腕で抱え込んだ腰の細さに、羨むより先に心配になる。
真面目で剣好きなだけあって、妥協無くしなやかではあるけれど。
脇腹を擽るとぴくりと動いた身体が、そのまま向き直られて。向けられるのは抗議の視線。
もうちょっと、肉つけたら?
……はい?
この辺とか、
心配なのよ、とそのまま洩らしてしまった本心は、案の定うまく伝わらなくて。
困らせ……たくも勿論無いけれど、ゆかりが傷ついたような表情を見せたのにぎょっとして、あわてて顔をあげさせる。
……ごめんなさい、言葉足らずで
……頼りない、ですか
え?
まさか。
即座に首を振ったけれどゆかりの曇り顔は晴れない。またうつむきかけるから思わず顎に添える右手。
このまま、キス、したいな。と、こんなときでさえついちらりと考えてしまう。とどめるゆかりの細い指が、私の手に触れて、一瞬だけ熱を押しつけるようにしたあと、そっと引き剥がした。
だけど目線は合ったまま。その強さに、私の方が負けそうになる。
……先輩くらい身長が欲しかったです
そうなの?
はい。
ずるい、とは言いませんけど、羨ましいです
身長くらいじゃ、強さは変わらないわよ
そうかもしれませんが、でも、
……じゃあ、どうして。
最初のすれ違いに戻ってきたから、ゆかりの口元を追い出された手を滑らせて、最初の位置に。
そのまま両腕で抱えあげれば、咄嗟の悲鳴を押し殺した声が、耳の奥に飛び込んで弾む。
……やっぱり、軽い。
ゆかり、軽いから
……先輩、先にせめて一言、
いつか飛んでいっちゃいそう
言ってからにしてくださ……はい?
持ち上げた肌に散らばる吸い痕は、残したいがためにつけたわけじゃないけれど。
私の愛情、があからさまに見えるのは嬉しくて幸せな反面、いつも少しだけ、
天使みたいに、
……はあっ!?
思うままを伝えればいいというものではないから、と。
いつものように心にしまった気持ちは別の形でこぼれ出てしまった。
あの、せんぱい!?
ここから、はねがはえるの
生えませんよ!
背中に伝わせたのは無意識だから、手加減ができなかった。
ゆかりが背をひきつらせ、さらされた顎元からの流線に引き寄せられる。鎖骨に乗せた欲が躊躇無く薄い皮膚を咥え。暫く食んでから、我に返る。
…ゆかり、
…ん。
……戻ってきました?
……なんでそこで困った顔するんですか。
呟かれ、今度は私が顔をあげさせられる。ゆかりの手はまだ私より熱い。
舌を入れる前に下唇を舐めてくるのは、ゆかりの癖。丁寧さを欲しがられたからそれに応えて、積み重ねる想いの交換。
頼りないわけ、無いじゃない
…それはもう良いです
そんなことないわ、大事なことよ
もうわかりましたから、
だから、良いです。
はにかみに近い表情が、迷い無く満足を浮かべてくれていたから、私の行動でそれを消してしまうのが勿体無くて、動けなくなる。
……頼もしいから、心配になるの
先輩って、いつも変なところに引っかかりますよね
うっ
取り越し苦労ですよ、それ
そういう言い方で良いの?
通じたならそれで良いじゃないですか。
頼りにしてますから、頼ってください
……はい
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とある話の続きのつもりがすっかり別物に。
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