恋人の特権




……思い出した。
夜中に爪、切っちゃいけないのよ?

おわっ

……あ、大丈夫?

ッ……あー、
まあ、ナントカ

最初に呑み込んだ罵倒語が気になるんだけど?

気にすんな。

えー

スラングの解説とかダルいわ。
アンタが使う必要もねーし

柊ちゃんにも必要ないわよ

へーへー、善処シマス。
……あ、あれか。

え?

爪のハナシ。
昔のメーシンな

……せめて伝承って言ってくれない?

つってもそれ、デンキ無かった頃のハナシっしょ。
デントーそのもんをバカにするつもりはねーよ

一般論として?

そーゆーコト。
ま、それに、
ワルイコトして楽しめンのは、コドモのトッケンじゃね?

……そういうものかしら

お、信じた?

……もー、ばかにしてー。
どうせ大人になったら、大人の特権って言うんじゃないの?

ゴメーサツ。
楽しみにしてろよ

……はい?

うーわ、マヌケ顔

……え、柊ちゃん、

カワイーケド

ありがと……って、そうじゃなくて

ナニよ? オジョー

ああ、…もう。
……ほんと、ズルいんだから

だからナニがだよ

わかってるくせに。
わかってるのに聞いてきて、わかってることを隠す気も無い、そういう意地のわるーい所。

おーコワ。
根に持つなよ?

それ、持てってことよね?

負けず嫌いなこって。

お生憎様。

そのワリに変なトコでオクビョーなのな、

……蒸し返さないでよ

オアイニクサマ?
そんな難しく考えんなって

……だって、

未来がどーなるかなんざ、知ったこっちゃねーよ

……そういう言い方、しちゃう?

永遠が無いから約束するんだろ

え、

今のアタシらがそう思ってるってコトは、確かだろーが

……うん。
柊ちゃん、

あ?

名台詞だけど、それ、相当恥ずかしいわよ

イヤ何でアンタが照れんだよ

だって、
……だって、

……ん。
んじゃ、何のトッケンにして欲しい?

……っ

祈?

……恥ずかしいから、言わない

そー来るか。

わかってるくせに、

コレは願望っつーの。
ワカッテルとかじゃねーよ

わかってるんでしょう?

わかんねーな

汲み取ってよ!

祈の口から聞きたい

……ばか








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パスは60回まで




ねーえ、

てめ……
さっきから、ウッセぇっつの

んー?
恋人に隠し事する柊ちゃんが悪いと思いまーす

隠してんじゃねぇし

教えてくれないなら結局は一緒だと思いまーす

…酔っ払いかよ

あら心外。
酒に飲まれちゃうタイプに見える?

未成年がイキガってんじゃねェよ。

わぁ、かっこいー

……

…ん、……あは、

アンタ、飲まれねェくせにわざとタガ外すタイプだろ

ふふ、試してみる?

ハタチんなったらな

……っ、

……てめ、

だって、柊ちゃん、それ、似合わな、……あはは、

へーへーソーデスカー

だいたい、経験者でしょ? 柊ちゃん

あー? そりゃ、フツーに飲みますケド。
アンタを巻き込みたくねェの。

むしろ巻き込んでくれる方が祈さん的には幸せだったり?

斗南サン的には不幸せだったり。

巻き込んでくれないなら巻き込んでしまえとか考えてみたり?

ザケンな

あ、ひどい。

はぁ?

今度はキスで塞いでくれなかった。

1回やりゃ充分だろーが

1回で満足なの?

今する必要があんのかよ

欲しいから、ちょーだい

……

……ふふ、

あー……

お酒入った柊ちゃんも欲しいから、今度、

やだね

ケチー

カワイゲで騙したいんならそーゆー奴んトコいけよ

いやです

じゃあ、

……けちー……、…っ、

あと何回欲しい?

……言っていいの?

ドーゾ?








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貴方にあげる純潔は無い(+神星)




泥水をすするような生き様を、受け入れられないあなたたちが眩しい。
(本当はもっと別の道だって選べたくせに、選ぼうとしない、泥にまみれた、とてもきれいな、)
ほんの少し諦めれば、人並み以上のしあわせは、充分に手に入れられる地位にありながら。
それはあなたには(あなたたちには)物足りないのかもしれない。
いちばん欲しいものの代わりだと、代償なのだという思いから、逃れられないのかもしれない。


アンタも、欲しかった?

ううん、いらない。


諦めないことも、つきぬけてしまうことも、私には出来ないから。
欲しいけど、欲しがらないの。
一歩先には扉。とても白く、うすよごれている、うすらぐらい欲求のこもる、ちっぽけな部屋。


……ったく、
星河にまで嫉妬させンじゃねェよ

…妬いてくれるの?

そーでもしなきゃ、コッチがミジメになンだろが

…そんなわけ、

わーってるよ。
これはアタシのモンダイ


ほんの一瞬だけ揺らいで消える、柊ちゃんのその感情が、嬉しすぎて息が詰まる。
これ以上他のものを吸い込みたくなんか無いと、胸も頭も判断して、停止しようとして、できなくて。


……ねぇ、それ、欲しい

…は?


玲たちのような、素直になれないまま(まっすぐで)、(きれいすぎて)地を這うような、かっこよくて(だから無様な)、あんな風には生きられない。
手に入らないものはいらないの。
諦めの果てに残る充足も、ほかのものとの天秤の上に成り立つ愛の形も、こんなにも幸せだから。
嫉妬と独占と優先への希求を、貴女にねだるわがままを。
どこまでも無責任に、放埒に、貴女が。貴女だけの権限で。
無知で不器用な玲たちが当たり前のようにゆるしあっているのが、簡単に欲しがれもしないくらい遠く、ただまぶしい。








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