拾い合う




……っ


首に回した腕で、しがみついて。
順の素肌を掻いているのがわかるくらい強く、肩口に押し付けた額が滑らないように、
悲鳴を堪えて食いしばる口元が、見えてしまわないように。


そ、めや、


荒い息の合間に、荒っぽく呼ばれる名前。
悔しそうで、その実ただ蕩けている、身勝手な深度が心地良い。
いま私がどうなっているか、なにをのぞんでなにをねがって、そしてなにをふうじこめているのかまでが、余裕の無い彼女に筒抜けだとわかっているから。
そう簡単には陥落してあげない。
代わりに、苦しいくらいの渇望をあげる。
はやく、もっと、ほしがって。


は、…ぁっ、…く、……ん!


耳元に吹き込まれることもなく、順の肌の上を滑って消えて行く喘ぎ。
くわえこんで、締めつけた指が、気ままに動いてはくれないから揺れる腰、遠慮なく順に体重をかける口実にして。
彼女の唇が、そろそろ寂しがっていることに気づいていながら、体勢も態度も変えては、あげない。


……も、いい?


ほら、強引に耳の奥に落とし込んで来た。
首を横に振れば歪む口、見えはしないけれど貴女の熱がまた、あがるから。


――じゅ、ん。


焼け切れた思考回路そのままに声を漏らしてしまう。
愛の言葉を囁くよりも、いたわりの指先やなぐさめの唇で触れられるよりも。
こうやって繋がり合っている事実それ自体よりも、よほど雄弁な呻き声が、お互いのためではなく、漏らされて。


…このまま、

ぁ、……ああ!


宣言とは裏腹に増やされた指の圧迫感も、乱暴に揺さぶられぶつけられる花芯からの快楽も。
彼女を絞り上げる律動、突き刺す勢いで背を削る爪、あふれ続ける熱い、飛沫。
どれひとつとして嘘は無いのに、声にならない声と、それを通じ伝わる思いだけが、ただ、鮮明で。
今日もまた、貴女を見ないままで、
貴女の不器用な笑顔が私を、果てに誘(いざな)って突き落とす。









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かなう日




はりつめた糸が切れて、くたりと落ちてくる細い身体を芯から抱きしめる。
最中は相当に積極的なクセ、終わると途端に距離の取り様に戸惑って揺れるこの人の、この人らしくない不器用さが愛しくて。明け透けな葛藤のまま離れていこうとするのを押しとどめて、ついでを装ってたくさんのキスを降らす。
そのままリスタート、になることもまぁないわけじゃないけど。セクシャルな意味を本気で持たせるつもりはないその接触は、言葉では伝えきれない気持ち、のつもり。
今日は無事に(それとも、残念ながら?)その意図のままで受け止められたらしい。目を細めた彼女がもう一度大きく息をつく。
指先があたしの顎を掬って、おしまいを知らせた。


タオル、あっためよっか?

……いいわよ

りょーかい。
んじゃ、ちょっと

いかないで。

……え?

…まだ、いいから


いつもならさっさと降りるのに。
あたしよりほんの少し高い位置から、向けられてた瞳がふいと泳いで。
鎖骨に当たった頬がすごく、熱くって。


染谷?

もうすこし、


消え入りそうな声が苦しそうだったから、どきりと跳ねた心臓のせいだ。
あたしの頬もあつくて、さっきまでのとは違う熱が、さっきまでのと同じ理由から、こみあげて暴れまわって思考能力を奪ってゆく。
これ以上なんて考えられないとしょっちゅう思ってるのに、染谷はあたしの知らなかった愛の形をこれでもかと見せつけて、それより上を引きずり出してくる。
一緒に引っ張り上げられる、むしろ吹っ飛ばされる勢いの恋模様は愛情も併存してるから始末におえない。
つまり全面的に敗北、降参の日々です。


……そか。
でも、ごめんね。

……っ


彼女の精一杯のわがままを、振り払う痛みはすこしだけ甘くて。
でも彼女の傷ついた姿で幸せを覚えるような、そんな危ない道に足を踏み外すつもりはないから。そんな顔させたくないと思う強い気持ちの方をもちろん優先させて、その衝動のままに彼女の悲しみに唇をつけて。
流れない涙をぬぐったつもりで、ささやく耳元の震えも、すくい取って。


あたし、あんたに風邪ひいてほしくない。


だから、ちょっとだけ待ってて。
そんで服着て、でももっかいくっついて、思っきしいちゃいちゃしませんか。

お誘いはいつものあたしっぽく。
ばか、とかひとつ返された声もようやくいつもの染谷らしくて、安心と残念がいっぺんに降ってきて、それなのに変わらず漂ったまんまの甘い空気に窒息しそうになる。


それとも、シャワーにします?

……この状態で、服着たく無いわよ

とりあえずティッシュで拭ってさぁ、

いちゃいちゃが遠のくけど、良いの?

染谷が気持ちいー状態で、いちゃつきたいじゃん。

いいから。
……はやくして、って、もう一度言わせるつもり?







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パターンC祭その2。
各タイトルはreplaさまの御題よりお借りしました。











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