ひだまりにわらう(叶ナギ)




なーさん!
誕生日、おめでとー!

おー……


目を開けた途端に飛び込む太陽は、バカバカしいくらいに春の陽気に溢れていた。


……はよ。

おはよう!
今日も良い天気さ。

あー……みたいだな……


ニコニコと笑いながら、布団を引き剥がした叶依を、恨む眠気は一瞬で消えた。
あっさりと上掛けが恋しくもなくなるくらいには、気持ちのいい朝だ。よく寝たし、こいつの起こすタイミングもいい感じだし。
今年はちょうど都合良く休日になってくれた誕生日を、こいつによって健康的な一日にしてもらうのは悪くない。
……そういえばルームメイトの奴、どこ行った。


……ありがとな。

え? 何がさ?


……祝われたことへの感謝が浮いてしまったのはわたしが悪いが、素で聞き返されると反応に困る。
こいつのこういうところ、嫌いじゃないから尚のこと言葉につまらされ、結局伝えられないままでそれが溶かされてしまうから。
なんとなく、不公平のような気が、してしまうのだ。


……色々。




ハテナを頭上にかかげたまま、それでも陽気に、嬉しそーに。
刃友トッケンで一番乗りさ、と差し出された包みを受け取る頃には、こっちもバカみたいにドキドキさせられていた。
照れくさいし、恥ずかしいけど、悪くない。わたしのいちばんのりを叶依にゆるすのは、とても心地良い。
そうやって、特別な日をこいつと過ごすことの幸せを柄でもなくしみじみと感じてしまっていたのだから。
じゃあまた明日、とあっさりキビスを返す姿に呆然として、それを誤魔化すための声がどうみても拗ねたものになってしまったのは、だから、そのせいだ。


……なんで、また明日になるんだよ。

え……?
なーさん、明日、わーに会えない用事あるさ……?

ちがう。


バカ。叶依のバカ。
せっかくの誕生日に、お前が真っ先に祝ってくれた特別な日に、こんな気持ちにさせやがって。


……夕飯、空いてるんだけど。


ていうか、空けてあるんだけど。

……こういうことを、言わせやがって。


っ!?
で、でもなーさん他にも、妹さんとか、ちはるさんとか、

そっちは昼に顔出しする。


つーかいーかげん、あいつと一緒に祝われたくも無い。
こんなことを言うと怒らせるから、飲み込んでそっぽを向く。
怒ってるくせに、わたしにそれをぶつけたりは結局せず、困ったみたいに疑問だけを差し出すところ、今日みたいな日には余計、見たくないし。


……相変わらず、素直じゃないさ

へーへー


そういうことにしといてくれるなら、それで良い。
あんたがいいんだ、とまで言ってしまうことは、出会って1年以上経つってのに、いまだにできやしないけれど。


じゃあ、ケーキ、買ってきても問題ないさ?

おー

リクエスト、

なんでもいい

もー、それ、一番言っちゃダメなヤツなんよ?

いーだろ、わたしの誕生日だ


あんたの手作りが良い。手料理込みで、ふたりきりでパーティもしたい。
来年は言えますように、と一年後の目標を設定して、いろんな意味でこいつに祝われて、笑われて。
わたしは今日ひとつ、年をとった。









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無邪気な愛を(綾クロ)




誕生日、おめでとう。

ありがと!

今からたんぽぽ園か?

うん!
今年はちょうどお休みだから、当日にお祝いできるんだ!

みんなへのケーキもあるよ! と誇らしげに掲げるクロ。
……いや何で祝われる側のお前が持ってるんだよ、というのはすんでのところで飲み込んで。


あー……
わたしも一緒に行って、良いか?

本当!?


刃友のくせに、……最近は少しだけその先も望んでる、くせに。
特別なことは何もできないわたしの精一杯を、こんなにも喜んでくれるこいつの肯定を。
こんなにも嬉しく思う自分さえがまぶしくて目が眩む。


ちなみにこれ、じゅんじゅんの手作り。

……事前チェック、しないでいいのか?

しぐまと一緒に作ったって言ってたから、多分大丈夫!

それは…


別の意味で不安なような、いや順がいるなら大丈夫か?
むしろ夕歩がこの分野でストッパーとしてちゃんと機能してくれるのか?
不安材料が不安材料を退治し合ってる時点で矛盾というか、結局おおいに心配だが、まあ、主賓の恥になるような真似は流石にしないと信じておいてやるか……。
感謝されてもいいぐらいの出血大サービスだ。ああ嘆かわしい、せっかくのクロの誕生日にお前に優しさを分け与えなくてはならないなんて。


えへへ、楽しみ

……そうだな。


白い四角い箱、大事に大事に抱えているから、持ってやる、とも言えないまま。
手を繋ぐのも諦めて、カバンの中のプレゼントは帰ってからこっそり渡すことに決めたわたしに。
こいつが見せた特別な笑みは、想像よりずいぶんと大人びた、くすぐったそうな幸せの塊だった。







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黒鉄誕2013。
タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。











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