意味がないことなんて、無いよ(夕順)




ゆ、ほ、……これ、とって

これ?

……っ

いたい?

……ん、……はぁっ。


なんでそこでそんな溜め息ついちゃうかなあ。
赤とも青とも紫とも言える筋、ほんの少し見えるその輪っかをなぞりあげるととたん、歪む顔。
こわばる身体がまたほどけるときの順は、どこからみてもきもちよさそーな顔、してた。


ここだけ、切ってくれれば、

ん?

あとは、自分で取れるから。

そう?


適当にしばった紐の端。
たしかに玉結びの根元っぽくはあるけど。
私にわかるのは、そこが、他のところよりも深く順の肌に食いこんでて、痛そうだなあ、っていうことくらい。
ひっぱる前にぴん、と弾くとびくんと震えた。見てたくせに、びっくりした表情しちゃって。嬉しい誤算に胸が高鳴る。


もうちょっと、遊ぼっか

…え?


掠れた声、乾いた、音。
大丈夫、どうせすぐにどろどろになっちゃうから。
さっきから、落ち着く暇もなくあふれっぱなしの、私の感情みたいに。










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誰か過去形にしてください(氷祈)




もう飽きた、んじゃ、なかったんですか

そんなこと、言ったかしら

……捨てたくせに

あなたが逃げたんでしょう

だって、玲、が、

ああ、あの、中途半端なコ。

ッ!

執着していたのは、貴女の方ではなくて?

だって、
わ、…たしは!

無様ね。


――だからこそ、面白いのだけど。
睨みつける視界が霞む。怒りで赤く染まりながら、不本意な涙でぼやけ、つまる呼吸が思うように反論することをゆるしてはくれない。


……ゃ、


こんなにも簡単に、人は過去に戻れるものだろうか。
あのときから増えたのは、少しばかりの抵抗の手段、なけなしの強情、ありあまるほどの絶望と悔悟。
ひとつひとつ顕(あらわ)にしては、見せつけるように壊していくこの人に向ける瞳は、白を通り越しすぐにまっくらになる。







ゆるしませんよ


ぽつりと漏れた本心は、乾いていたくせにあっという間に広がっていった。
部屋の壁の染みのように。ただ見ているしかなかった、あの頃みたいに。


絶対に、

……

…あなただけ、は!

光栄だわ


ふっと笑う顔を、視界にいれてしまう(見上げてしまう、)枷から逃れられない。
そう、仕込まれたのは、何時のことだったろうか。


…明日いっぱい、ここでこうしていてあげましょうか


逃れようもない犯罪の痕。
ひどい、暴力で、破壊の傷跡。


できるものなら、どうぞ?


散らばる証拠は、見せつけるには、私が必要で。
すべてを白日の下になど、できるわけがないと知っていて。
――この人は。

たとえば私の頭が、もう少し回らなければ。
もっと楽に得られただろう解放は、けれど私の頭がもう少し回らなければ、陥るはずもなかった穴からのもの。

怖いとわかっているのに(傷つくと、気づいているのに)見てしまう、
何もないって知りながら(何もくれないと、思い知りながら)探してしまう、
欲しかった心の欠片が刺さったままだから、求めてしまう。
(奪われたのも、刺したのも、私だけれど。)
(この人は、本当は。本当に、何も。)


子供の頃からよく回る頭だった。
ちっとも言うことを聞いてはくれない、感情だった。













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タイトルはふたりへのお題ったーよりお借りしました。











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