つたえたいメロディがあるよ




ただがむしゃらに貪るんじゃなく、追い立てて暴き立てるばかりでもなく。
本当はこういう形じゃなくてもいいのかもしれない、なんて強がりをそっと吐けるようになったあたしたちに、(でもそれは紛うことなく強がりではある、あたしたちに、)
唐突に訪れた切れ目に、おおきく息を吐くついでに。
少しばかり間抜けな提案も要望も、気負えずにできるようになったのも、進展と言っていいんじゃないかと思うんだ。


染谷、一回どいて。
下、脱ぎたい

……されたい?

それもいーけど。
あんたのこと、素肌で感じたい

……ばか


濡れてるとこ、擦り付けるの、好きなクセに。
口に出して機嫌損ねられて、なんて勘弁だから、目線だけでおねだり。渋々、と言った風情で降りてくれる染谷、ついでと言わんばかりに自分も脱ぎ出すから思わず苦笑い。

触りたくて指持ってくと、微妙に残念そうな顔してくれちゃうくらいには好きだもんね、あんた。
まぁ一緒に期待を瞳ん中にちらつかせてくれるから、その反応込みで楽しみにはさせてもらってるけど。


……なに、脱がせたかった?

んー、それはどっちでもー


染谷が脱ぐとこをしっかり凝視してたせいで、もたつく自分の手先にいらっとして、もう面倒になって下着もスウェットもまとめて放り投げる。
途端眉を顰める彼女を笑って引き寄せるのは、ゆるされているあたしの特権で、ずるさ。


お待たせ

ちゃんとしなさいよ


呆れた声に含まれる水気が、失われてしまう前に。
太股の上、じんわり湿ってる暖かさに。頬を緩めれば今度こそ落ちてくる、深いため息。
深呼吸にも似たそれに応えるために、まずは、胸元に吸い付いた。
こうやって下から見上げるのが好き。きゅ、と絡まれた脚の柔らかさをただ堪能したくて、いつもなら背に回す右手を腰に滑らせて、そのまま、


……まだ、だめ

ん、わかってる


唇を離すたびにどちらかがしゃべるから、お互い、あっという間に息が乱れて。
目を閉じてはキスに戻って、時折タイミングよく目があって笑い合って。
言葉でなしに伝える好き、は、ばかみたいに自分勝手で(だからふたりのための)愛のことば。








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「はいはい、降参です」




……なんか、違和感

あなたねぇ……


普段通りの呆れ声。含まれてる糖度は五倍増し。
(ほらいつもが限りなくブラックに近い微糖だから。)


いや、あんただって同じこと思ってんでしょーが。
思っきし顔に出てますが?

こうやって見ると、いつも以上に余裕なさそうね、あなた

だって、……なんかさぁ、
潰しちゃいそうで、心配になる

そんなにか弱くないわよ

知ってるけどさ、知ってるからこその違和感っていうの?

あなたこそ、

おあ?
……重かった?

違うわよ。
……髪の毛、

あー……邪魔だった? 縛ろっか?

邪魔というか、
新鮮で面白いわね


どう反応すりゃいーのよ? それ。
ふてくされる以前に戸惑ってるあたしに、仕方ないわね、という表情を浮かべて。
その甘さを摂取したくて、思いっきり吸い込みたくて息を詰まらせると、悪戯のように添わせられる指先。
刺激で表情筋がゆるむとますます目の前の顔がほころぶから。
本格的に甘やかしモード、で頭撫でられるより前に、こちらからも、おんなじ愛を降らす。


今のところ邪魔ではないから。

そお?

あなたが髪縛ってる姿、すきだから、別に縛ってくれても……

……っ、

は、え、……ちょっと!

な、っんで、こゆときにそーゆーこと言いますかね……
……ごめん、嬉しすぎて死にそう

……謝らなくていいし、こんなことで死なれても困るんだけど

明日から縛ろっかなぁ……

……いいわよ、いつも通りで

……独占欲?

ちがうわよ


違和感がいつの間にか消えていたのは多分、いつもの、に近い距離をお互いが見つけられたせい。
手を伸ばさなくても届く。相手の吐息が素肌に当たる。逃げられるから逃げない位置で、染谷があたしを捕まえる。


いつものあなたも、同じだけ好きなだけよ


なんて、あたしの髪をひとふさ取って、下から愛しげにすいてくれるんですから。
嬉しすぎて死ぬことはなかったけど、うっかり泣いてしまったのは、不可抗力だと思います。













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かくれる場所はもうないよありがとうをいう日アフター)




他意なくもたれかかるしあわせを、このひとにゆるしたのはいつからだろう。
わからないことが嬉しくて、同じだけ悔しいから、負けた気分になる私に。
気を遣っているくせに気にしてない風を装うあなたの強がりを、笑うことが出来ないから、代わりにもう少しだけと、距離を詰める。


…律儀だよねぇ

……は?

見せに来てくれて、ありがと

……笑っていいわよ

なんで

自分でも恥ずかしいんだから


抱きしめるより抱き合うより恥ずかしいこの体勢ごと、明日どころか今からだって忘れたいくらいに、いたたまれない。
だけれど自分からやめてしまうという選択肢が無いことが、自分の本心をどうしようもなく代弁していて。


だから。
なんで?

だって……こんな、
待ち望んでたみたいじゃない

そうじゃなかったの?


決戦も仲直りも。
染谷に取っては結末もかな?

間違ってはいないのにもどかしい勘違い。正したいけれど、気づいて欲しいけれど、気づかれたくない。
私よりずっとたくさんのひとの幸せを。ただ願って、ただ喜べるこのひとを、
……喜ばせるために、見せに来てしまうことこそを楽しみにしていたのだということは。


……もう、勘弁して

んー、
……そんじゃお望み通り、

……っ

すっごく嬉しいから、だから笑ってもいい?


その声だけで、ついに抱え込まれた腕の中の暖かさだけで。
息苦しいほどの抱擁ひとつで十分すぎるから、首をふりたくなる。
逃れようもない快楽をうけいれるときのように、拒絶ではない否定で、なんとか消化しようとする、欲しがる欲の深さが、恥ずかしくて余計に、苦しい。












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順ゆか二次創作界の騎乗位率の高さについて。(訳:強気受おいしいです)
タイトルはふたりへのお題ったーからおかりしました。










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