大人・思春期・諦観・熱情(氷祈)




声も、熱も。
発した途端に四散して消えてしまうのは、天井が高いせい。


ぁ……、


腿に添わせられた指の冷たさに、ふるりと震える。
波を描くように、動いては、離される五指の軌跡。
もどかしくて、離したくなくて膝頭から軽く合わせると、動きが止まると共に不機嫌そうな嘆息。
びくり、揺れながら、この手ごと取り上げられてしまうことを恐れて動けない私に。
命じるのではなく指先ひとつで思うままにするこの人は遠くて、届かなくて、だからこそ刺激のひとつひとつが、刺さるように沁みて。
命じられる必要など無くしてほどけた下肢に、急落の一手が加えられ、まだ遠いと思っていた悲鳴が呆気なく転がり出た。


い……っ!


……3、本。
だと、思う。珍しくもまとめて差し込まれているから、確証は持てないけれど。
いきなり2本も増やすのは、氷室さんらしくないから。
この前が随分と奔放だったから、覚悟はしていたつもりだったのに。現実の圧迫感は想像以上で、苦しくて、いっぱいで、何もかもがあふれるより先に逆流する。
抱かれるたびに少しずつ、先に進むように感じられるのが。なんだか少しずつわかりあえているようで、嬉しい。
氷室さんはただ楽しんでいるだけなのだろうけど。私に気を使ってるからではないのだろうけれど。
これも確かに優しさなのだと、身動ぎすらつらい状況に息を詰まらせた脳が解釈して、私の背に信号を送っては芯から融かす。
まだ気持ち良いと思う余裕が無いから、遠慮なしに縋る口実をもらって手を伸ばした。
肩口に添えると撥ね退けられる。自然腕にくだった指に、また、苛立たしげな吐息。


無様な遠慮を、しないでくれるかしら?


促され掴んだ肌の広さに、滅多に覚えの無い氷室さんとの距離に。
それだけで泣きそうになった私の声までを封じられて、いつもより余計にくわえ込んだそこが、ぎちりと悲鳴をあげた。








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不作為の屈託(氷祈)




「いっぺんに壊してしまったら、つまらないじゃない」


この人らしい冷淡に、胸が高鳴るどうしようも無い自分を持て余して、思わず直接的に強請ってしまったのが全ての元凶。


でも、そうね


張り詰めるまでは至らない静寂が訪れきる前に流し込まれる液体を、確認する間もなく飲み下す。
唇が離れて、満足気な吐息が漏らされたのに、安堵。


今日はこれ、ですか?


口元を抑えながらなのは、口の中もごもごさせてるのを、見られたくないから。
舌でかき集めても掬いとっても判断できない味に、不安が募るほどに心臓がいやな跳ね方をする。
本当に「壊す」ことは、まだしないだろう、という自惚れから来る快楽の予兆。
唾液で随分と薄まりながらもべたつく人工の甘さを、だめ押しのように飲み干しながら、陳腐な想像で背筋を震わせた。


……氷室さん、

何。

いいですか?

もう効いたの?

あーやっぱりそっち系ですか……


たぶん、「今日」のはずではなかった予定を繰り上げて、何段かは分からないけれど突き飛ばすように空を飛んで。踏み外して。
その階段はのぼるためのものでなく落っこちる方で、螺子のような螺旋。
妄想の上でたどり着いた踊り場では、ここまで来られた満足と次があるのかという不安の二律背反に苛まれる、真っ暗闇の段差の山。


それはまだ、ですけど。
…たぶん。

そう?

ん……


勿体無いから目を閉じられない私の口内を舌先ひとつで蹂躙しながら、いとも容易く目蓋をおろしてくれるのは嬉しくて、さびしい。
慣れ親しんだ、(と言っていいだろう)この人の唾液を飲み下すのに苦戦して、乱す呼吸がじわりと熱を呼ぶ。
この快楽の出処はいつもと同じなのかもしれないし、いつもとは違うのかもしれないけれど。
熱があがる理由はいつも貴女ですから。
それがどんな手段であっても、目的であっても、構わないのです。














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唐突に氷祈で微エロいのが読みたくなったので吐き出し。自家発電、自家撞着、自業自得。

「大人・思春期・諦観・熱情」は大北紘子「丘上の約束」(コミック百合姫2013年1月号所収)の煽りより。
あの雑誌に要望をひとつ通せるなら「『鎖の斬手』連載化」と即答できる程度には、そもそも百合姫買ってる理由が彼女の存在である程度には信者です。
幸せと絶望が並び立つあの様と、懸命にもがく少女たちの綺麗さ壮絶さは、永遠の憧れ。










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