これの続き。
前提はパターンC。
託しきれないホワイトボード(順とはやて)
お、あれ?
あ、じゅんじゅん。
どしたの、はやてちゃん。 忘れ物?
……というわけでもないか。トレー持ってるし。 さっき桃っちたちとごはん食べてたじゃない。あやなに締め出された!でも諦めない!とか力説してたじゃない。 ほんとに通りがかっただけだから、夕歩のごはんのためにフル稼働してる最中だったから詳しい状況はよくわかんないけど。
えー、まさか2回お昼ごはん食べるとか?
これはあやなの分!
へーなるほど……どしたのあいつ、またゲームハマってんの?
んーん、風邪っぽかったから。
かんびょーしょく! と元気よく叫ぶはやてちゃん。 看病、に脳内で変換できるまでに一泊のタイムラグがあって、だからスムーズにツッこむ機会を逃してしまった。 多分病人食とか療養食とかって言いたかったんだよねえ。うんうん、かわいいねぇ。
……夕歩の奴、移ったかな?
かな? でも、まだびねつっぽかったから、だいじょーぶだとおもうよ?
おかゆと、お茶と、桃味のヨーグルト。 とんとんと並べられていく、わかりやすいメニューに頬がゆるむ。いいなあ、愛されてるなあ。 はやてちゃんなら、手作りでももっと綾那好みにも出来ただろうに。 まっすぐに食堂に来て、ためらいなく並べられていくその素早さが、ほんと、愛情だよねえ。
……しかしあたしらだけぴんぴんしてるってどーなの
バカだからだよね!
……はーやてちゃん?
ん? ツッコミ待ちじゃなかったん?
きょとりと首を傾げながら、箸を取るのに苦戦してる風だったから背後から手を伸ばし、ひょいと載せる。 スプーンは2本で良かったかな? アイコンタクトに破顔してくれた上目遣いが可愛かったから、だからプリンは順ちゃんからのサービスでプレゼントいたしましょう。
あやな、たぶんそんな食べらんないよ?
これははやてちゃんの分。
おお!? じゅんじゅん、ありがと!
どーいたしまして。
そんじゃ今度、あやなと食べるね!
んー、その気持ちは嬉しーけど。 なんならそのときはまた買ってあげるから、これは今日、はやてちゃんが食べな。 魔法のプリンですから。
そーなん?
うん、あたしからのお礼。
そんじゃありがたくちょーだいいたします。 こがねいろのおかしを!
おー、よきにはからえ。
ボケ同士も楽しいけど、ちょっとだけさびしいね。 お互いそう思ってることがわかって、もういっかい笑い合う。 さびしさをごまかすために目の前の小さな頭を撫でるのは自重。トレイ、落とされちゃっても困るし。
じゅんじゅんは今からゆかりのとこ?
え、なんで?
先輩さん、心配してたから。
……なんで?
しんない。
お使いのサンドイッチとオレンジジュースを袋に入れる手が滑った。 あああ増田ちゃんごめん! 卵サンドちょっと潰れちゃったかも!
風邪流行ってるんかな?
…まじですか?
だから、しんない。 じゅんじゅん、行ってあげたら?
…そーする。
それ、運べなくてごめんね。
いーよ、はやく綾那んとこいってあげな
ん!
そんじゃーね! プリンありがと! 最後まで律儀な叫び声でたったと駆け出すはやてちゃんに、ばいばいと手を振ろうとして、できなかった理由に。 ぎゅっと掌握りしめて、ビニール袋をがさりと音立たせて。
あたしもまっすぐに走るために、その前にいっかい落ち着くために、大きく深呼吸しようとして、ただ情けないためいきだけが漏れたのが。
なんだか彼女に負けたみたいで、悔しかった。
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ナイチンゲールの境界線(順ゆか)
…めや、…染谷、
……ぅ、…ん…、……じゅん?
おはよ。 だいじょぶ?
…え? なにが?
起きたら目前に恋人の顔、というのは、残念ながら嬉しいよりもまず困惑が先立った。 真っ先に思ったのは、夕歩か綾那かあるいは先輩か、に何かあったんじゃないか、ということ。 実際に何かを心配している風の順は、その割に慌ててはいなかったから。 まどろみからたたき起こされることができなくて逆に、中途半端なもどかしさを抱えることになる。 ……この目の動きだと、心配、というよりは不安、かしら。 おたおたしている人を、放置しておくわけにもいかないと、脳が判断をくだし渋々ながらに覚醒の決心をしたところで。
や、え、…えと、……失礼、
……? ……っ!
ふっと落ちてくる影、にまず気を取られたのは未だ寝惚けていたから。 このままキス、されていたらただ受け入れるだけになっただろう程度にはまだ夢現をさまよっていた私に、くっつけられる額。 ……あまりに手馴れていて、怒る気にもなれなかったというのは、後日の述懐時点での感想。 思い返してみてもやっぱり妬くより呆れが先に立ってしまったのだから、本当に、この人は(そして夕歩は)、ずるい。
んん? あんた、ふつーにお元気?
え? ええ。
至近距離のままで首を傾げる順を反射的に追いやったのは、だから、仕方無いと思うの。
…あ、夕歩の風邪? 大丈夫、うつってないわよ。 ……たぶん。
少なくとも、今のところは。 そういえばこの人、ここにいていいのかしら。 でもこの人がここにいるってことは、彼女はもうだいぶよくなったと、素直に喜んでおけばいいのかしら。 喜ぶ原因は彼女の復調の報せだけだと、強がろうとする自分に向けられる安堵のためいきに、ちくりと胸が痛む。
そか、よかった。 して、真面目な染谷さんが珍しくもお寝坊の原因は?
芸術肌の部長様がまた徹夜いたしまして
そろそろ頭も回るようになったとお互い確認したところで、今度こそ、降ってくるおはようのキス。 こういうところが律儀で、(けれどそれは臆病の裏返しで、)だから愛しくてつい、待ち受けてしまう。
ん、おつかれです。
どういたしまして。
この幸せはきっと順だって欲しいのだろうな、とは思いながら、委ねてしまう甘えを、恥ずかしくも悔しくも思う心境は。 この人に気づかれていなければ良いと心から思っているけれど、どうなのだろう。
今回は、アシスタント?
まあ、そうね。 あの人、ひとりで放っておくと倒れるまで描いてるから
染谷が甘やかすからだよねぇ
……あなたには言われたくないわ
……そーなんだよねぇ
お互い自覚していながら、だからといってやめられるかというと勿論、そんなわけにはいかず。 お互いの心境までわかってしまう気持ち悪さに、地の剣病だよねぇと情けなく笑ったこの人が私の他に誰を思い浮かべていたのか。 尋ねようと思いながら忘れていたことを今更ながらに思い出す。
夕歩、どうなの?
まあ、ぼちぼちだねぇ。 綾那に移ったっぽいから間違いなく風邪なのも確定致しました。
……私なら大丈夫よ?
そっちははやてちゃんにお任せしました
へらっと笑う横顔は少しだけ寂しそうで。 ああ、いつかの私もこんな表情をしていたのだろう。 あなたに任せて、押しつけたつもりでいて、失礼な後悔と負い目を抱えていた過去の自分の影にいたたまれなくなって、返す声が思っていたよりずっと冷たくなってしまう。
…ふうん?
…うん、あの子なら安心できる。 少なくともあたしなら看病されたい
あなたがそういうなら、
きっと大丈夫なのでしょう。 素直にそう思えるのは一体誰のどんな成長によるものか。 ……まぁ一番進歩してないのはきっと綾那よね。 八つ当たりに笑い飛ばす代わりに、忘れないうちにと。 キスを返す目測を誤って不格好になった腹いせに、鼻先に齧り付いたらばかみたいに喜ばれた。 ……いつも注いでる(つもりの)愛情より嬉しそうだったんだから、納得いかない。
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タイトルはおなじみ、replaさまの御題より。
出会ってもう5年以上になりますが、5年以上ずっとときめきっぱなしです。……しあわせ。
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