束縛ごっこ




…いやなら、いやって言ってよ?
やめるから、しないから。
でもしたいから、いやっていわなきゃ、やめないから。


んくっ……うっ、……あ、……いっ!


じわりざわりと暴れ回る熱が、胃や脇腹までを圧迫して爆ぜる。
指先までを震わせる刺激を逃がしたくて声を漏らし、逃したくなくて声を堪える。
他のところに気をやる余裕がなくて、いつもよりずっとたやすく明け渡す、よわいところ、もろいところ、……きもちいいところ。
一度与えてしまったら、もう、はなしてはくれないから。やさしくて、やまなくて、あふれすぎてくるしくて、きもちいいのに、きもちいいから、じわじわとしか押し上げてくれないのが、くるおしくて。
……もう、この状態から脱したいから、更に上に行きたいからいやがる私の懇願を、
言葉通りにしかとらないと宣言されているから、だから理性を飛ばしてただ縋ってしまうことが、出来ない。


ふっ……あっ、……あっ……


規則正しく、締めつけも逃げをうつ腰もものともせずに。
こちらの声も、呼吸も、反復されてゆく、ほんの少しずつ高まってゆく。
いやではないのに、いやと言えないのは。とても自然なようでいて、素直でない心が悲鳴を上げる。


…そめや、

ん、…う、……やんっ!


そっと唇で挟まれた衝撃に、反射的な拒絶を必死でこらえて、噛み殺した結果息が詰まる。
もう、根を上げてしまいそうな自分を意地だけで押しとどめるのは、この人が、珍しくも真面目な顔で口にした提案だから。
今だって、とても誠実に、(だからこそひどくもどかしく)私を扱っている、最中だから。

――お願い。もう、ゆるして。
無理やりでいいから、耳なんか貸さなくて、構わないから。だから、

いやと言えないから、抗えないからその束縛に耐え切れずに漏らしかけた渇望を。


…ひっ……!

……すごいね、

っふ、…あ、あ……


絶妙のタイミングで吸い上げて、封じた彼女の満足気な吐息までを貪欲に受け止めて、震える身体がにくい。
すっかり陥落しきってしまっているのに、すべてをゆだねてしまうことをゆるしてはくれない順の弱さがいとおしい。
悲鳴に近しい否定の言葉を、不安気なくせに期待しているあなたの瞳が、私のせいで濡れて輝いているから、そのたびに諦めさせられる、そのたびに抗いようもない悦楽が襲いかかる。


んああっ……ひゃっ、……あ……もうっ!


……そうか、ねだれば良かったのかと。
(この人は、本当は、これを望んでいたのかと。)
気づいた頃には既に泣こうが喘ごうが弱められない波が目前に迫っていて、あとはただ飲まれるばかりだった。


…ん、

……や、……――!


解放は(順の笑顔は)とても、呆気無く与えられた。










…いやなら、いやって言ってよ?
やめるから、しないから。
でもしたいから、いやっていわなきゃ、やめないから。


んくっ……うっ、……あ、……いっ!


声も、熱も。感度までもがいつもよりずっとすごくって。
息を呑む暇も無い。呼吸のひとつもうまく吐き出せない、だって勿体無い。
染谷が好きで、たぶん両思いっていってよくって、キスもそれ以上も妄想にとどまらず、いつだって夢かと思うくらい。舞い上がって、頭ぐらついて、幸せだけど、泣きたくなるくらいに最高だって胸張っていえるけど。


ふっ……あっ、……あっ……


追い立てなきゃ漏らしてくれない嬌声、とか、乱れてから紡がれる否定の言葉、とか。
それが染谷なりの精一杯だってわかってるのに、終わったあとで、思い返すとき。シャワー浴びたり、シーツ替えたりしてるときに、あたしが自信を持ちきれないせいで、ふっと小骨みたいに刺さることが、あるって。
告げられないままで、したおねだりを。あたしのわがままでしかない、意地悪な提案を。
なんで受け入れてくれたのか、聞けなかった後悔は、晴らせないままで時が過ぎる。


…そめや、

ん、…う、……やんっ!


そうっと口をつける。壊れ物を扱うように触れる、くわえる、それから、舐める。
だめ、と言いたかったんだろう染谷の拒絶が、堪えきれてしまったことを喜びながら残念だとも思う、少しばかり乱暴な心を押しとどめながら、そっと、やさしく。
とろとろとこぼれ続けるそのにおいが、鼻の奥にまでつんとかおって、舌先で転がす味を勘違いさせる甘い悲鳴までが、いつもよりもずっと濡れていることに、たまらなくなって。


…ひっ……!

……すごいね、

っふ、…あ、あ……


音が立つくらい思いっきり吸い上げたら、腕の中の痙攣と一緒に両脚が容赦なく背を叩いた。
小さく果てた証拠が無防備に、さらされたままだから、求められてる、ままだから。
いやと言われていないから、だから欲しがられているのだと錯覚できる。
彼女の本心はいつもまっすぐで、錯覚しようもないくらいに明け透けで、わかりやすいって。
わかってるのに、泣き声も鳴き声も、堪える押し殺す吐息も濡れた瞳も唇もすべてが雄弁すぎるくらい雄弁なのに。

いつも、これ以上ないってくらい、伝えて貰ってるのに。


んああっ……ひゃっ、……あ……もうっ!


ほしい、とわななく彼女に、肌の裏までが粟立った。






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